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TAKARA

TAKARA西口編
『TAKARA』 執筆のきっかけとは LinkIconこちらへ

 1

 「西口ー!」

「おーうっ!!」

自分に回されたボールを、うまくドリブルをしながら4人をゴボウ抜きして、ジャンプし、半

回転しながら、後ろ向きにダンクを決めた。

「っしゃーっ!!!」

ベンチから大きな歓声が聞こえてきた。ピィィィィィと試合の終了を合図する笛が鳴り響く。

「試合終了!勝者神崎西中学校!!」

再び観客からたくさんの歓声が聞こえてきた。お互い向かい合って礼をす

ると、仲間がみんなが集まってきた。

「西口っ!やったなーっ!全国大会だぜぇっ!?」

「お前めちゃめちゃかっこよかった!最後のダンクっ!!」

強く頭を撫でられて少しからだが前のめりになった。

「ちょ、先輩っ!痛いっすよ!!」

ケラケラと笑いながら顔を上げた。みんな満面の笑みを浮かべている。その時、視界の

上の方にブラブラと左右に揺れるスポーツドリンクのボトルが目に入った。見上げるとそ

こにはバスケ部で一番背の低い同級生の加名盛が先輩たちの背中からはい上がって、

それを自分に差し出していた。

「加名盛、サンキュー」

「お疲れ!」

加名盛が元気よくそういって笑顔で、スルスルと先輩の背中から降りていった。

「西口君っ!」

後方から高い声が聞こえてきた。その声に振り返る。同じクラスの園原岬だ。

「おう!」

そう返事をしてから、無理矢理その輪から抜け出した。俺が輪から抜けても、みんなは、

はしゃぎにはしゃぎまくっていてそれに気づかなかった。

「はい、タオル。お疲れ様、かっこよかったわよ」

俺にタオルを差し出しながら満面の笑みでそう言った。

「サンキュー。マジで?そんなこと言われると照れるなー」

タオルを受け取りそれで汗を拭きながらキシシシと笑って言った。

「何それ。いっつもそうじゃない」

岬も笑った。岬とは小学生・・・いや幼稚園の時からずっとクラスが一緒だ。何の縁かしら

ねーけど、たぶん世間的にこれを腐れ縁と言うんだ。

「んじゃ、タオル洗って返す。サンキューなっ」

そう言って岬に背を向けた。

「うっしゃー!これから酒飲みだー!!」

輪の中の中心にいる先輩が大声で叫んだ。

「ちょ、先輩!俺たちまだまだ未成年ですってーっ」

それに反応しそう言うと先輩が俺の方に振り返った。

「んなもんわかってらーっ!!!って西口お前どこにいるんだよー!!」

「すみませーん」

それに全員爆笑し、そんなたわいもない会話で盛り上りしばらく勝った喜びを互いに分か

ち合った。


 酒ー!なんて大きいことを言ってたのにも関わらず、結局、俺ら中学生は先生のおごり

で連れて行ってもらったピザ屋のオレンジジュースで打ち上げをした。それでも帰り道、

先輩は酔ったかのような騒ぎっぷりだった。もちろん言うまでもなくその騒ぎに巻き込ま

れた訳だが。先輩たちから逃れられたのは結局家に帰ってからだった。

「ただいまー」

まだ笑いが引けないまま玄関のドアを引いた。

「おかえりなさーい」

手前の部屋から母さんの高い声が聞こえてきた。珍しく父さんも帰ってきているようだ。

靴がある。

「今日行けなくてごめんなさいね。どうしてもキャンセルできない仕事が入っちゃって」

「んーいいよー母さんも忙しいんだろー?しょーがねーだろ」

ケラケラと笑いながら肩に掛けていたスポーツバックをソファーの横に置き、どっとソファ

ーに身体を預ける。

「あれ、父さんは?」

「何言ってるの?そこにいるじゃない」

洗濯物をたたみながら母さんはクスクスと笑いながら俺の横のソファーを指さした。俺は

素直にその指さした先を見る。

「うわっ!父さん存在感薄くなってる・・・・」

父さんは居間の中央部にあるソファーの上に寝っ転がっていた。片眼だけを開けて俺の

方を見た後ふっと笑う。

「存在感薄いとか失礼な」

と大口を開けて父さんが笑った。

「父さん最近仕事大変?今までこんなソファーなんかに寝る事なんてなかったじゃん?」

「まーな、日曜日もかりだされた訳だし…大人もいろいろ大変なんだよ」

「何それ」

「はは。でどうだった?」

「全国大会行き!」

「やったな!」

父さんが右手の親指でぐぅーっとやりウインクをした。

「さすが俺の子!」

父さんが自慢ありげにそう言うと俺も父さんも噴き出して笑う。

「仲いいのはいいけど、早くどっちかお風呂入っちゃってね。冷めちゃうわよ」

「おお、もうそんな時間か。リュウ俺先入ってもいいか?」

親の二人は俺のことをちゃんとフルネームで呼ばない。最初の『リュウ』だけで呼ぶ。どう

やら、『瑠斗』と言う名前が気に入らないらしかった。父方の親つまりおじいちゃんが八卦

見で、昔からたくさんの人の名付け親として有名で、この町でもおじいちゃんに名前を付

けてもらった子供は多いと言う。けれど父さんには自分の子供の名前は自分で付けたい

とう夢があって、生まれる前から父さんはもう付ける名前をきめていたらしい。

けれど、自分の孫に名前を付けることが出来なかったということはおじいちゃんにしては

プライドが許さなかった訳だ。

「いいよ、疲れてるみたいだし。早く入って早く寝た方がいいって」

「そういって何か夜にやらかす訳じゃないだろうな?」

父さんが起きあがりながら冗談交じりでそんなことを言う。

「冗談はよしてよ父さん。するわけないだろ」

その父さんの言葉をさらりと流した。父さんは「それもそうだな」と言いながらお風呂の方

に姿を消した。

「・・・・なんか父さんいいことでもあった?」

完全に父さんが姿を消したのを見届けてからまだ洗濯物をたたんでいる母さんの方に顔

を向けた。

「・・・さあ?なんでそう思うの?」

「え、なんか・・・楽しそう」

自分で曖昧な言葉を返しておきながら、少しそれに笑った。それにつられて母さんも笑っ

た。あー・・・なんか落ち着く。

「そういえば、今日すごいダンク最後に決めたそうじゃないの。やるわね」

「あれだけのために毎日練習してるよーなものだから」

そういいながらソファーから立ち上がると、床に転がっていたバスケットボールを手に取

った。自慢じゃないけど、一応俺は神崎西中学校バスケ部エース。バスケ部の先輩が一

年生でエースの座を取ったのは俺が初めてだって言ってた。俺がバスケを始めたのは幼

稚園のまだ年中ぐらいから。父さんがよく庭でバスケをしてるのを見て、見よう見まねで

始めた。それから一日たりともこのボールに触らなかった日はない。小2までは父さんの

を使っていたが、小3の誕生日プレゼントに買ってもらった自分用のボールをまだ使って

いる。父さんが自分のことを初めて認めてくれたという思い出が残ってるからなのか、今

のお小遣いでボール一個なんてふつーに買えるのに、買ってない。

「やる?お母さんと」

「ええええ!?できんの?母さん」

「お母さんの腕を侮らないでよ。これでもお父さんと互角にやり合えるんだから」

なにげに二の腕の力こぶを見せながら母さんは得意げにそう話す。毎晩父さんが風呂に

入ってから1or1は日課になってる。それに父さんに勝つことはすごく・・・稀だ。その父さ

んと互角にやり合う?母さんが?

「ホントにできんの?」




  か、母さんを侮りすぎた・・・・。

「母さんやるな・・・」

俺が物心をついたときから庭にはバスケットゴールがあった。そのゴール下で少し息を切

らしながら言う。

「そういうリュウもやっぱり練習してるだけあってテクニック上がったんじゃない?」

「そお?ありがと」

ははっと笑いながらごろりと中庭に寝っ転がった。空がきれいだ。まるで宝石をちりばめ

たように星が輝いている。

「じゃあ、お母さんはまだ片付けものあるから」

そう言って母さんは用意していたタオルで汗を拭いながら家に入って行った。

俺はそれに小さく手を上げ再び満点の空を見ながら、いつまでも勝利した感動の余韻に

浸っていた。




 「はーい1Bの皆々様ーおっはよーございまーすっ!!瑠斗様のご登校でございまーす

っ」

バーンっ!と教室の引き戸を思いっきり開けて中に飛び込んだ。

「んだよー西口かーお前朝から元気よすぎー」

窓側で机に座ったままこっちを見て文句を言いながらもケラケラ笑っている男子が一番

はじめに話しかけてきた。

「おー西口ーおはよー」

「おはよう西口君」

「はよーさん西口」

みんなが口々に挨拶をする。

「ちょ、ちょ、ちょ。何でみんな俺のこと名前でよばねーのよ」

少し不満げに口をとがらせる。

「みんな呼んでるじゃねーか、西口ー!って」

はじめに話しかけてきた男子がまだケラケラと笑いながらそういう。

「えーそれ俺の名字ー俺の名前瑠斗ー!」

「はいはい、わかったから、西口早く席に着け」

「んだよもー先生までー」

ぶーぶーと文句を言いながら、教室の一番前の窓側にある自席まで行く間に岬の姿を見

つけて歩み寄った。

「岬、これ、サンキュー」

鞄の中からタオルを取りだしそれを岬に渡した。

「あ、わざわざ洗ってくれてありがと。またがんばってね」

「おうよ」

「西口ーどこで油売ってるんだ。色気づいている暇があったら早く席に着け」

と先生のお声がかかってしまった。ようやく自席まで行き、座る。いすに座った後半分ほ

どずり落ちて再び座る。

「西口、お前そんなに背小さかったっけか?」

先生が教台の前に立ちながら冗談交じりで言う。そういう先生の視線は西口にない。常

に手元を見ていた。男子がケラケラと大声で笑い女子は控えめにクスクスと笑っていた。

「そーっすよー俺背縮んで行くんですよー一日に5センチずつ」

そー真顔で返しながら鞄の中から教科書を引き出しの中へしまった。

「今日は昨日やった抜き打ちテスト返すぞー」

みんなが盛り上がったところで先生は平然とした顔でそう言い放った。とたんに笑い声は

やみ、みんな「えーっ」と口をそろえた。

「今回の平均点は76.5点。トップの点数は100。最低は…その子のために言わないで

おく」

先生の口ぶりからして、最低の子の点数はおそらく普通ではないのだろう。このクラスに

は普通に0点を取る奴は少なくない。

「安藤」

「はい」

「もーちょっとだったな」

「あー…また」

先生と名前を呼ばれた生徒は一言ずつしゃべりながらテストが返されていく。

「西口ー」

やっと名前が呼ばれた。

「はーい」

何ともだらしない返事を返しながら席を立って教台の前まで行った。

「おめでとう」

「え、マジで?やったー俺満点~♪」

テストを持ったまま両手を高々と上げて大声を上げた。

「んだよー100点ってまたお前かよー今回は俺かと思って期待してたのによー」

残念そうにつぶやく奴もいれば、素直に誉めてくれた奴もいる。

「おーい西口ーまた勉強教えろー」

「おうーいいぜー」

自席に戻って引き出しの取っ手に手をかけると指先がちくっと傷んだ。

「…?」

反射的に引いた手を恐る恐る引き出しのとっての裏に当てる。

…画鋲…?

画鋲を留めていたらしいテープごと剥がし、それを見つめ首をかしげる。

「あっれー・・・西口ーなんで画鋲なんかもってんの」

すると、後ろの奴が肩越しに話しかけてきた。

「ん?ああ、これ?きのー引き出しの中に入れておいて忘れてたやつ。うっかり指に刺し

ちまって」

ケラケラと笑いながらそう返事を返すと、そいつはふーんと興味なさそうに顔を引っ込め

た。そう言ったものの画鋲なんかここ何ヶ月も使った事はない。

…はぁ。なんだよ…これ。これが…最悪の結果を生み出す第一歩となった。



 放課後になると大好きなバスケをやるため、教科書を全部鞄の中に放り込むとダッシュ

で体育館へ向かった。

「にっしぐっちくーん」

後ろから同じ部で同級生の萱島が大きく手を振りながら追ってきた。

「んだよー」

「そんな急がなくたってバスケは逃げねーよっ♪」

「んなこと分かってらー」

追いついてきた萱島にスピードを合わせながら返事をする。スピードを合わせても、まだ

結構なスピードで走っている。ようやく体育館に着いた。体育館の前にある部室に入り、

制服からジャージに着替えバスケットシューズを手に持って体育館に入った。なにをもた

もたしているのか、萱島はまだ後ろから追ってこない。シューズを床に落として履く。

「…痛っつー」

足に何か刺さった。靴から足を引き抜き自分の膝を台代わりにして足の裏を見た。そこに

は見事に画鋲が1/3ぐらい突き刺さっていた。

「…はぁぁぁぁああああ」

大きくため息をつき、足に突き刺さった画鋲を引っこ抜いた。指で刺さった所をさすり、血

が出ていないことを確認してから靴を履いた。そこで萱島が入ってきた。

「なに、お前、画鋲持ってんの?」

「…画鋲ってどこに返すわけ」

「…先生の席の後ろに画鋲入れあるじゃねーかよ」

「ああ!あそこか!」

「あそこしかねーって」

萱島は俺に呆れてるのか、ボールを倉庫から出す作業も手伝わないでぼーっと突っ立っ

ている。

「かーやーしーまー。先輩たちくっぞ」

「ああ」

俺のその声ではっと我に返ったのか、やっと萱島が動き出した。と、ほぼ同時に萱島の

後ろのドアから先輩たちが入ってきた。

「先輩ーボール全部使いますかー?」

大きい声を出してキャプテンに聞く。

「あーそれだけでいーよー」

「了解ですー」

あれだけ楽しみで走ってきたのに、やる気が全然湧いてこなかった。

「先輩、俺今日部活休んでもいいっすか?」

準備体操を始めようとしたキャプテンの近くまで行って話す。

「あ?あーどうしたんだ?お前全国大会近いぞ?」

「いや…なんかこう…やる気しないんっすよ」

なんかこうやって自分で口に出すと余計にやる気がなくなってきた。

「まーいーや。昨日の試合で疲れも出てんだろ!休んでろ。でも、みんなの練習する姿

見てればすぐにやりたくなるよ」

先輩はそう言ってくれたが、体育館の端に座って見学していたが、それでもしばらく

乗り気はしなかった。走り込みから始まってパス練習に移る。そのとき足下にボールが

転がってきた。顔を上げて、ボールの転がってきた方を見ると萱島がこっちを見ていた。

「西口ーなにやってんだよーやろーぜー」

「んー」

萱島がそういうと足下に転がしてくれたボールを持った。すると不思議にやる気が湧いて

きた。いつもの感覚が戻ってくる。自分が一番好きな感覚が。

「よっしゃー萱島パス練ー!」

「おうー!」

俺と萱島のパス練はみんなとちょっと違う。みんなよりもパスパターンが多い。高度な技

も入ってくる。特にシュート練習などは。

さっきのやる気の出なさ…なんだったんだろう…?

「なんだー西口お前できるじゃねーかー」

みんなが休憩を取って、俺と萱島がシュート練習をしているときにキャプテンが話しかけ

てきた。

「なんかボール持ったらやる気出てきて。やっぱりボールって大事っすよね」

「お前がゆーと様になるよなー」

少しうらやましそうに言う。

「気のせーっすよー」

たった40分の部活を終え、体育館を出て、部室で制服に着替え直した。ポケットの中に

入れてあった画鋲が自分に突き刺さった。

「ってぇ!?」

驚きで変な声を上げてしまった。

「画鋲?」

萱島は訝しげに訊く。

「さっきの。入ってること忘れてたー」

「ばーか」

萱島が俺をからかうように言ってくる。

「うっせなー」

それにケラケラと笑いながら返した。今の手持ちの画鋲は計2個。絶対に誰かの仕業

だ。シューズの中に入ってたのは偶然にしても、引き出しの画鋲は意図的にしか考えら

れない。テープが勝手にくっついた、なんてことは絶対にあり得ない。でも…誰

が…

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