
『TAKARA』 執筆のきっかけとは
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「あそこを見て!」
いきなり岬が大声を上げた。岬はある方向を指でさしている。その方向に視線を向ける
と、公会堂の向こうからよろよろと歩いてくる陰が見えた。横に立っていた宝が急にそこ
に向かって走り出した。
「谷屋さん!」
宝の後ろに続く岬のその声に、ようやく俺は状況を理解出来た。谷屋は数日前、行方不
明になった人物だ。確か宝たちはこいつを捜し出すために、探偵ごっこなんて物をやって
たんだっけか?
谷屋を見ると、顔は真っ青で血の気を失い、目はうつろで焦点があって居らず、口はだら
しなく開き、そこからはよだれを出していた。居間にも倒れそうな足取りだ。だんだん近づ
いてくる。
「谷屋か?」
俺はすぐさま駆け寄り、今にも倒れそうな谷屋を抱きかかえた。そして変わり果てた谷屋
を見て目を疑った。谷屋だって?こいつが?
谷屋の身体から力が抜け、俺の腕もすり抜けて倒れ込んでしまった。俺はそれに驚き、
谷屋がコンクリートの上に倒れないように反射的に片足を跪き、抱えた。そのまま少し揺
さぶる。
「どうしたんだ!何があった?」
軽く頬を叩いた。谷屋の目は完全に俺を見ていない。遠くをただ見つめるだけど、何の反
応も無かった。なんだ?気が触れちまったか?
「一体どうしちまったんだ?」
その答えを、宝に求めるように、見上げた。顔つきからして宝も岬も知っている感じだっ
た。また俺だけのけ者ってか?いっつもこいつらだけ何か知っていて俺は知らない。
宝は膝をつき、谷屋の手を握った。
こんなことしてて何になるんだか。
俺は少し呆れた。しばらく黙りこくってしまった。身動き一つしない。次第に谷屋の胸あた
りの上下運動もなくなった。・・・・・え?
「どうした。死んだのか?」
本当はそんなこと、口にしちゃいけないんだろうけど、嫌な気がしてならなかった。それで
も宝は黙ったままだった。何かと思い話しかけようと手を挙げかけたら、谷屋の心臓部に
右手を左手で包んだ拳をあてた。そのまま目を瞑ってしまう。
「ちょっ、おい。お前何してんだよ」
胸に当てられた手を退けようとした。しかし、びくともしない。
「おい!やめろって!どうしたんだよ!」
宝が徐々に顔をしかめ始めた。いよいよ本気で心配になってきた。奥歯をかみしめる音
がする。当てられていた手が震え始めた。
「おい!おい宝!!」
俺の呼びかけにも答えない。その時、谷屋の開いた口から黒い霧のような物が飛び出
てきた。その黒い霧のような物は俺たちの頭上で渦を巻きながらものすごいスピードで
公会堂の方へ消えた。
「な、何だ今の・・・・」
あれだけの事に腰を抜かしそうになった。
神社の渦巻きといい、今の黒い霧といい。こいつらといると訳の分からないものばかりに
出くわす。いったいこいつらの真の目的は何なんだ?いや、正しくは宝一人、か。
学校では弱い者を助け、成績優秀な優等生。外に出れば、趣味の探偵ごっこ。特技は説
教。挙げ句の果てに女子の胸に手を当てるし、変なものを一人で追い返そうとするし。一
体こいつは何者なんだ?
「もう・・・・大丈夫だと思う」
その声で、俺は現実に引き戻された。宝は俺の腕の中から谷屋を起こし、下にゆっくりと
寝かせた。下に置いたのを合図にしたように、谷屋の顔に数秒も経たないうちに赤みが
帯びていった。
「谷屋さん大丈夫?」
岬がしゃがみこみ、谷屋の手に触れた。すると谷屋の目がゆっくりと開いた。3人一緒に
なって、谷屋の顔をのぞき込む。その三人の顔を見渡すと、ビックリしたように跳ね起き
た。
「な、何?ここはどこ?」
「もう、大丈夫よ」
岬が谷屋をなだめるように言った。その岬の顔を見ると、安心したのか、徐々に落ち着き
を取り戻していった。
「どうして私、ここに?」
きょろきょろとあたりを見回しながら、誰に問うわけでもなく、言った。
「お前、どこへ行ってたんだ?捜索願が出されてるんだぞ」
そう俺が言うと、谷屋は夕べの事を必死に思い出そうとしていた。
「覚えてない。犬の散歩に出たことまでは覚えてるけど・・・・」
はいはい、俺の事がそんなに怖いですか。それはわるぅーござんしたね。明らかに俺の
声に怯えている。と言うか自分の事なのに何で覚えていないんだ?おかしいだろ、そん
なこと。
「公園でのことは?」
ふと、宝はそんな質問をした。俺の声に怯えていることが分かったのか、その質問の仕
方は、なだめるような、とにかくいつもより優しい問いかけだった。
「公園?」
谷屋は首をかしげた。俺は宝の方に目をやると、宝の視線は既に谷屋の方ではなく、岬
の方にあった。岬はそれに小さくうなずいた。
「何だよ、公園って」
俺は不満をそのままぶつけてみる。谷屋も知らないようなこと、どうして宝が知ってる?
ぜってー聞かせてもらうぞ。
「とにかく救急車を」
そこに岬が邪魔をするように入ってくると、すぐさま携帯を取り出して救急車を呼んだ。
「園原さん、そんな救急車何て。私どこも怪我なんてしていないわ」
谷屋はそれを証明するかのように、すくっと立ち上がると、服に付いた砂をぱんぱんとは
たき落とした。
「ちょ、俺の目の前で砂払うなよ」
「あ、ごめん」
さっきまでの怯えは消えていた。あれ・・・・俺が他のクラスの奴と普通にしゃべって
る・・・・。宝と岬以外のクラスメイトと・・・・・。今まであんなに避けてたはずなのに。俺の
引いた一線はいとも簡単にまたぐことができたってか?
遠くに救急車のサイレンが聞こえた。
「え、何お急ぎって感じ?」
俺は冗談半分に、サイレンが聞こえる方を見ながらそう呟いた。
「あ・・・・」
岬が短く声を上げた。一斉に3人の視線が岬に集まる。
「あ、いいや」
「岬・・・お得意のおっちょこちょいは出してねーだろーな?」
疑いの目を向けながら、面白半分で聞いた。
「大丈夫よ、もうそんなに私ドジじゃないわ」
少し膨れながら、両手を腰に当てた。その時ちょうど俺たちの前に救急車が到着した。
「救急隊です。どちらの方でしょうか?」
目の前の消防隊員は困っていた。なんせ、この中に怪我を負っている人や倒れている人
がいないから。
「あ、この子です」
岬は谷屋を一歩前に出した。
「捜索願が出されていた谷屋みちるさんです」
「乗ってもらえますか?」
「はい」
谷屋が救急車に乗り込み、出発した。遠くなっていくのを見届けると、隣で立っていた宝
がふらりと揺れた。そのまま道路に尻を付いてしまった。
「宝君、大丈夫!?」
少し前にいた岬が宝に駆け寄った。俺も隣の宝をのぞき込んだ。
「動けるか?」
「ああ」
そう力強い返事が返ってきたものの、顔は青ざめているし、とても大丈夫な状態とは言え
ないと思う。それでも立ち上がろうとする宝に手を貸しながら聞いた。
「お前、谷屋に何をしたんだ?そのせいなんだろ?」
そうとしか考えられない。今の今まで、俺の説教をするほどの力があったのだ。それなの
に急にこんなに顔色が悪くなるはずがない。
「あの化け物はお前が追い払ったんだろ。さっきのもその類なんだろ!隠さずに教えろ
よ!お前もやっぱり化け物なんじゃないのか?」
妖怪とか怪物とか。エイリアンとか。もし宝が本当にあの化け物を追い払ったんだとした
ら、そんなSFみたいなこと、化け物じゃ無いと出来ない。
宝は全く怒る気配は無い。
「宝君は化け物なんかじゃないわ!」
宝の代わりに岬がカンカンになっていた。
「化け物じゃなかったらなんだって言うんだ?変な化け物と一緒にいるだろ?」
「あれは一緒にいるんじゃない!戦っているのよ!」
そこではっとしたように岬が口を両手で塞いだ。その後に宝の方をちらりと見たが、宝は
うつむいていて、何の反応も見せなかった。
「へぇ、探偵ごっこの次はヒーローごっこか。中3だってーのに気楽なもんだな」
皮肉たっぷりに言ってやったその言葉にも反応しなかった。
「おい、宝。やっぱり身体おかしいんじゃ・・・」
何か考え事しているらしき宝に触ろうとした手の手首を岬に掴まれ止められた。目線で駄
目だと訴えられる。宝の方に目をやると、そこにはもういなかった。そのまま前を見ると、
既にバスに乗り込む所だった。
「お、おい!」
俺は反射的に走り出し、宝の後を追った。
「はぁー・・・ぎりぎりセーフ・・・」
俺と岬はステップの位置で、膝に手を置き、呼吸を整えていた。宝はバスの一番後ろで、
まだなにやら考えているようだった。
「・・・あいつ、大丈夫か?」
「宝君?」
「そうそう、そのうちUFOに連れ去られちまったりするんじゃねーか?」
「もう、ふざけたこと言わないで」
そう言いながら軽く睨んだ。
「はいはい」
ふぅ、とため息を吐くと、それ以上の会話もなく、バスから降り、家路についた。妙に最近
変だ。宝が来てから。というか宝につきまとうようになってから。別に楽しいって訳じゃ無
いのに、人と普通に接することが出来るし、今まで通りに普通に普通の言葉がでちまう
し。前よりも気持ちが落ち着いてて、苛つく気にはなれなくて。全く不思議な事ばかりだ。
もしかしたら俺宝に洗脳されてるとか・・・?あり得ない何てこともなさそうだ。現に宝はこ
の世の生き物でもないような奴と戦っているのだから。
次の日、俺はまた宝を待つ岬に突っかかっていった。
「なんだよ、お前また宝の奴待ってんのか?」
岬は俺の顔を見るなりため息をつく。
「西口君だって、毎回毎回私たちにつきまとって何のつもり?」
「だからそれは前にも言ったろ、お前たち二人がこそこそと怪しい行動するからさ」
両手をポケットに突っ込み、岬とは反対側の、ドアにもたれかかる。
「何がそんなに面白いの?」
岬にそう指摘され、初めて自分がにやついていることに気づいた。
「別にー?何も」
とは言うものの、何で自分が笑っているのかも分からない。自然と頬が緩んできた。
「なあ、宝って本当は転校生じゃなくてエイリアンなんじゃない?」
昨日から疑問に思っていた事を口にする。
「だから、それは昨日も言ったじゃない。人間よ」
俺の真剣な顔とは反対に岬はクスクスと笑った。
「だってやっぱり変だぞ、あいつ。俺の発作は治すし、いきなりあんなこと言い出すし、谷
屋だって口から何かが飛び出していったんだぞ!・・・・お前だってあいつが来てから何
かおかしいし・・・・・あいつに洗脳されてんじゃない?UFOの中に連れ込まれてさ」俺は
冗談みたいなことを真剣な顔でいった。だってそうしか考えられないだろ?
「バカ言わないで。そんなSFみたいな・・・・」
現にそう言う事だろ?
「隠さないで教えろよ。この街で何かが起きてんだろ。前に死んだ松村もそれに関わって
るんだろ。あれは自殺でもないし、人が殺したんでもない。きっとこの世の者でない恐ろ
しい何かがやったんだ」
昨日の谷屋みたいになってたという噂だ。昨日の宝が胸に手を当てる前の谷屋の状態
で。
「そう思うなら自分で探り出せば?」
そう岬はぶっきらぼうに言った。それだからつきまとってまで探ってるんだけど?
「あ、おはよう」
宝に気づいた岬がニッコリと笑ってそういった。
「おい、昨日の説明をまだ聞いてないぜ」
今にも楽しそうに会話し始めそうな二人を止めるために、口を挟んだ。二人は一緒に、ま
だ諦めてないのか、という顔をした。
「お前は知らない方がいい。こんなことに首を突っ込まない方が身のためだ」
なぁにが身のためだよ。へえ、そんなに教えてくれねーんならいいよ。
「いいよ。教えてくれないんならお前たちにまとわりつくだけさ」
どんな手を使ってもぜってー探ってやる。じゃなきゃ俺がもやもやしてすっきりしねーし。
教室に入ると、教室内は谷屋が見つかったという話で持ちきりだった。どこから噂で流れ
たのか、俺たち三人が助けたと知った生徒たちが、岬を質問攻めにしていた。おかげで
俺たちは助かった訳だが。
「一体どこから噂ってーのは流れるんだ?しかもこんな早く」
「どこかで誰が見ててもおかしく無いよ」
さらっとそう流され、宝は席に着いてしまった。
俺は休み時間になると、見張るために、必ず岬側に着いた。もう好き勝手はさせねー
ぜ?俺に説明してくれるまでな。
それからずっとつきまとった。一日・・・二日・・・あれから行動を起こさない。だんだん暇に
なってきた。そう感じていたときに、ようやく宝と岬が二人だけになった。その後ろをつい
て行く。すると運の悪いことに、二人の前に木村たちの軍団が立ちはだかった。しかしそ
こには肝心の木村がいない。木村がいないその集団はただのチャラ男たちの集まりに過
ぎなかった。
「おい、宝君よ」
そういってあのパーマ男が近づく。4人は丸く2人を囲むと、一人がなれなれしく宝の肩に
腕を乗せた。俺の中で通称鬼太郎。髪を長く伸ばして、挙げ句の果てに片眼まで隠して
いる。
「あのときのお金はいろいろに使わせてもらったよ。だけど細かすぎて店のおばちゃんに
嫌な顔されちゃったぜ」
俺は廊下の角で身を潜めた。会ってたまるか。あれ・・・?会ったら行けないというもの
の、それが何でなのか分からない。今までみたいに苛つかない。前まではあいつらを見
るだけで苛ついて仕方なかったのに。
「もう、止めなさいよ」
岬のその声で考えるのをやめ、もう一度二人の方に視線を移した。
「何だよ。おめえら、いちゃいちゃして。こんな奴より俺らと来いよ。岬ちゃん」
くっそ、そのきたねぇてで岬をさわんじゃねーよ。
「いい加減にしろ!」
もう少しで飛びだしそうになったとき、宝の怒鳴り声で俺は行動を止めた。宝の方を見る
と、もううんざりしたような目つきで、そいつを睨んでいた。あんな宝は見たこと無い。
「何だよ。やる気か?」
後ろにいた残りの奴も、ぞろぞろと前に出てきた。
「もう、集ろうたって無理だぜ」
そう言いながら、宝は岬を自分の後ろに下がらせた。声にもどこかとげがある。・・・どー
かしたのか?ついに堪忍袋の緒が切れたのか?
「このー!!」
宝のその態度に切れたパーマ男は一発食らわせた。・・・・はずだった。宝はそれを軽々
と避けたのだ。
「てめー!!」
もう一度体勢を立て直し、同じ奴が拳を振り下ろした。しかし宝はその拳を避けるそぶりも
なく、逆にそいつの胸元をつかみ上げ、思いっきり顔面にパンチを食らわせた。口から血
を飛ばしながらそいつは、地面にたたきつけられた。
「くっそー」
一斉に他の奴らが動いた。それも簡単に避けると、おまけに、足蹴りまで食らわした。
今までの宝がこんな事したか・・・・?確かに少し悪だとは聞いたが、こっちに来てから一
度もこんな事なかった。むしろ、こんな事は自分から避けてきていたはずだ。なのに・・・
どうしたってんだ?
「宝君、止めて!」
後ろに下がってその様子を見ていた岬が、宝にしがみついた。そして叫ぶ。
「離せ・・・・」
宝は岬に視線を移すことなく、そう言い放った。岬にあの口調だ。今まで無かったはず。
「駄目よ・・・・宝君らしくない」
らしくない・・そう言えばそうだ。一瞬ぴたりと動きを止めた。しかし岬の声は届かなかった
のか、宝は無理矢理しがみつく岬を振り払い、転がっているやつを一人つかみ上げた。
その時、ふっと宝が手を緩めたのが分かった。そいつはよろよろとしながら倒れ込んでし
まった。ぼーっとしている隙に、立ち上がった一人が宝に殴りかかった。今度はその攻撃
を避けずに真っ向から受けてたった。
「おい、こいつ歯が折れてんぞ!」
完全に伸びてしまっているパーマ男を起こした奴がそう叫んだ。
「くっそー、おっ、覚えてろ!」
集団はパーマ男を引きずりながらその場から逃げ去った。・・・逃げ足のはえぇ奴ら・・・。
「宝君、大丈夫?」
身動き一つしなくなった宝に岬は顔をのぞき込みながらそう聞いた。宝はどっこらしょと立
ち上がると、服に付いた砂を払い落とした。
「・・・ごめん」
いきなり野次馬をかき分けで校庭の方に向かって行った。
「・・・なんなんだよ・・あいつは・・・・」
俺は壁伝いにしゃがみ込むと、膝に手を掛け、組むと、そこの間に頭を入れた。こういう
時は・・・本当のこと言ってくれるのかどーかしらねえけど、ま、本人に聞きに行ってみるっ
きゃねーか。
すぐに立ち上がり、宝が行った方向へと軽く走り出した。

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