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TAKARA

TAKARA西口編
『TAKARA』 執筆のきっかけとは LinkIconこちらへ

2年生の2学期。たぶんそれぐらいだと思う。俺は昼食を買うためにコンビニへ行った。

コンビニの入り口付近には2人ほど別の学校らしき中学生徒がたむろっていた。それを

横目で見ると通り過ぎ中へ入った。中には3~4人ヘアーカラー売り場の前でぎゃーぎゃ

ーとやっていた。俺はかごを取り、おにぎり2つとサラダを適当に買うと、中学生徒が騒い

でいた所まで行った。不良たちは今は買い物を済ませ、外に出てしまっている。さっき一

人が立っていた所と同じ場所に立ってみた。目の前には髪を金に染めるためのヘアーカ

ラーがある。無意識に俺はそれを手に取った。金髪かぁ・・・・。さっきこれを手に取ってた

奴は、完全に暴走族に入っていそうな柄をしていた。俺もそんなんになるってか?とても

じゃないけど恐ろしくて買えない。

・・・・・けれど、気づいたら、手に取っていたヘアーカラーをレジに出して買っていた。何か

を決意した訳でも、はめを外した訳でもない。でも気づいたら既にお金を払っていた。家

に帰ると靴を脱ぎ捨て、ヘアカラーを袋から取りだし、説明通りに染めていく。サランラップ

を巻いて久しぶりの居間に入りソファーに座った。

・・・・気づいたら手にとってそれを買っていた・・・・。確か手に取ったときは、あんな風に

なりたくないって思った。あんな不良にはなりたくないって。なのに・・なんで?あのとき

の自分は、染めることで何が変わるとでも思ってたのか・・・?自分のことなのに・・全く覚

えていない。もしかしたら髪を染めた事でまた木村たちに虐められるかもしれない。パク

リだとなんだとか言って・・・・。あれ・・確か仲間はちゃらちゃらした格好で・・髪も染め

て・・シルバーアクセしてて・・・。でも木村は・・・黒髪で身なりもズリパンと腕にちょっとシ

ルバーアクセ付けてるだけで・・・他の生徒と違うところ何てない・・・。

「ちっ、俺ってあいつらより弱えーのかよ・・・・」

ヘアーカラーを流すために再び洗面所に入った。サランラップを綺麗に丸め捨て、シャワ

ーを出し、頭を流し始めた。色が変わった水が排水溝の中へと流れていく。今のこの気持

ち、この薬剤みたいに綺麗に流せたらいいのに。きっと、今の俺は、透明な水じゃなく

て、この汚れた水なんだろうな。

流れていく水が透明になったところでタオルで頭を拭き、鏡を見た。・・・・すげえ、金髪

だ・・・・。ドライヤーで乾かすと、ゴミをゴミ箱の中に放り込み、買ってきた昼食の袋を持っ

て自分の部屋に上がった。買ってきたおにぎりにかぶりつく。

・・・何で俺髪なんか染めたんだろう。髪の毛を染めれば・・・たぶん・・・何かから逃げれ

ると思った。何から逃げたいのか・・理由は見つからねーけど。

その日にご飯を食べるために、下に降りていくと、運悪く、まだ片付けをしていた母さんに

出くわしてしまった。母さんは俺の髪の色を見て、あんぐりと口を開けた。

「リュウその髪・・・・」

母さんはそう言ったが、それを完全に無視し、冷蔵庫の中から昼に取っておいたおにぎり

を持ち、再び二階へ舞い戻った。絶対に、ああいう顔をすると思った。


 それからたびたびコンビニへ飯を買いに行く俺は、そのコンビニにたむろする中学生と

仲良くなった。仲良くなったといっても、一緒にたむろうぐらいで、家を行ったり来たりはし

ない。今日もそのコンビニへと足を運んだ。

「よう!西口ー!」

「お前ら毎日暇だよなー」

俺に向かって大きく手を振ってくる奴に、手を挙げて応えると近くまで行き、話しかけた。

「そーゆーお前もだろ?」

「まあ違いねーけど」

そいつの隣に腰掛けた。こいつらは中学生の癖して、たばこを吸い、酒を飲んで、あげく

の果てに、暴走族のかなり上の方に位置するらしい。

わいわいと話題で盛り上がっているときに、一人が俺に話しかけてきた。

「あっれー西口お前ピアスとか付けねえの?」

俺の耳をのぞき込みながら言う。どうやら半分酒で酔っているらしい。こいつらのたばこと

酒は、普通の店では未成年で買えないため、暴走族の先輩たちが与えてくれるらしい。

「あ?ピアス?ああー・・・そう言えばつけてねーな」

自分の耳たぶに触りながらそう答えた。別に付けたくない。けど・・・・

「俺のいる?なんなら開けてやろうか?」

隣に座ってた奴が、自分のピアスを外して俺に渡してきた。俺はそれを受け取り眺める。

「穴は安ピンで開ければいいし。ファーストピアスとか、ピアスホール作るための物とか、

消毒液とか今あるからやるよ」

といいながら、手持ちの手提げ鞄の中をごそごそと探り出した。俺は手のひらに乗ってい

る二つのピアスを転がした。キャッチタイプとフープタイプのピアスが乗っている。

「二つももらっていいのか?それに用具とかも」

「ああーいい、いい。どうせそのピアス奥に眠ってた奴で今日気まぐれに付けてた奴だ

し、俺たくさん持ってるから。それに消毒液とかねえと心配だろ?ケアは大切だからな。

ほい。」鞄から探り出した物が、俺の手にどっさりと置かれた。

「こんなに?」

「おう。そんぐれーねえと、穴開けたときに膿むぞ?それからちゃんとがんがんに感覚が

なくなるまで氷で冷やしてから開けろよ」

「分かった、サンキュー」

それだけをビニール袋の中に一緒に入れると、家に持ち帰った。実際、本当に開けるどう

かずっと迷っていた。用具を渡されても、それでも。元々髪を染めたのも自分の意志であ

って自分の意志じゃない。最初は染めよう何て思ってなかった。今回もそうだ。流れに乗

ってこんな物までもらってしまったが、開ける気にはなれない。一階の居間のソファーに

どっさりと身体を預けるとふんぞり返った。たぶん、ここで開けなければ、もう普通にあい

つらの前に面は見せられない。だけど・・・開けたくない。

身体を元に戻すと床に目をやった。すると視界の端で何かが光ったのが見えた。そっち

に視線を移す。そこには・・

「安ピン・・・・?」

少し大きめの安ピンが落ちていた。母さんが裁縫に使うための物だろう。母さんはなぜか

まち針を使わない。それを拾い上げた。

・・・開けて・・みるか?

ソファーから立ち上がると、冷蔵庫の前まで行き、ビニール袋を取り出し、その中に氷を

つめた。穴を開けるときに痛くないように。ある程度中につめると、その口を縛り、右耳に

当てた。まだこの時期に氷は早いと思う。冷たすぎて、すぐにでも感覚がなくなりそうだ。

ティッシュ箱をつかむと、氷を耳に当てたまま、もらった物を持ち、二階へ上がった。こん

な所親に見られたら何て言われるか。ドアを閉め切り、鍵を掛けると、部屋の真ん中に置

いてある丸い机の上に置くと、その場に座った。そして後ろにあるベッドにもたれた。俺

は何やってんだ・・・・。安ピンを見た瞬間、俺を何かが支配した。これを何て言うのかわ

かんねぇけど・・・。

ある程度感覚のなくなったところで、氷を外し、指で耳たぶを弾いてみた。何にも感じな

い。試しに安ピンで突いてみたが、全く何とも無かった。俺は消毒液をティッシュに付け、

丹念に拭きあげるとそのままの勢いで、思いっきり耳たぶを突き刺した。針先が裏側に

達しても、何の痛みも無かった。その時、頬を何か生温いのもが流れていった。鏡をのぞ

き込む。

・・・涙?

痛くも無いのに、別に何かに悲しんでるわけでも無いのに、なぜか涙がでた。

なんでだ・・・?そんなに開けることが嫌か・・・?・・・もう自分が分からない。

安ピンを一応一番奥まで入れてから引き抜いた。その隣にもう一つ穴を作る。垂れてき

た血をティッシュで拭き取り、穴にティッシュを当てた。氷と一緒に。こうすれば、血の止ま

りが早くなるって聞いた。血が止まったのを見計らい、ファーストピアスをした。これを6週

間付けて、消毒をする。ピアスホールができあがるまでかなりの時間がかかった。その

間何とか学校の先生や親には見つからなかった。

ようやくピアスホールが出来て、もらったピアスを両方とも付けてみた。両方ともシンプル

なシルバーでそれほど嫌みが無い。その時ずきんと、胸が痛んだ。どうやら心臓ではな

いようだ。でもどこかで感じたことのある痛み。俺はそれを無視して、一階に下りた。する

と、居間で母さんが何かを探している。それを横目で見ながら、冷蔵庫から飲み物を取り

出した。

「あ、リュウ、ここに安全ピン落ちてなかった?一つ足りないのよ」

ソファーの前に裁縫道具一式を広げながら、その下周辺を母さんは探しながら聞いてき

た。もしかして、ピアスの穴を開けるために使った安ピンがそうなのか?

「・・・・これ?」

めんどくさそうに、ポケットから安ピンを取り出し母さんに差し出した。

「え?あっこれだわ!どこにあったの?」

「・・・・さあ?」

「何かに使ったの?」

「別に」

麦茶を2杯飲み終えると、冷蔵庫の元あったところに戻し、また二階へ上がった。ああ、

ほんっとーに・・・・妙にイライラする。それから親には反抗し続け、入退院を繰り返し、半

年が過ぎた。


 ある日、三年生に進級してから初めて学校に登校する。1時間後病院に行った後、学

校には遅れて行った。まあちゃんと学校に行きたい訳でもないけど。時計で時間を確か

め、腹筋を使って起きあがる。仕方なくベッドから立ち上がり、学校へ行く準備をする。授

業をまともに受けるつもりのない俺の鞄の中はほとんど空っぽだった。あれから勉強はあ

まりしていない。たぶん今授業やテストを受けたといしても最下位だろう。鞄を肩に担ぐと

階段を下りた。

「あら、リュウ、病院?・・・学校?」

母さんが話しかけてきた。鞄を見て少し顔をしかめる。学校に行くことがそんなに悪ぃか

よ。母さんは俺が病気をした原因が学校にあるんじゃ無いかと思っている。だから俺が毎

日学校へ行くときに見ると、母さんは必ず顔をしかめた。そんな母さんに返事もせず靴を

履いて玄関を出た。久々にいい天気だ。俺がほぼ入退院を繰り返して日々を繰り返して

いくうちに、3年生になっていた。季節も5月で桜はもうとうの昔に散ってしまっていた。病

院へ寄ってから学校へ行った。いつもと同じように校門をくぐる。時間帯も時間帯なだけ

に登校生は一人もいなかった。静まりかえっている。俺はなるべく目立たないようにしな

がら校舎にはいった。しかし2年生の2学期ごろに染めた金髪とピアスのせいで目立つ。

階段を上ろうとしたとき遠くから話し声が聞こえた。

「なぁなぁ、知ってるか?あの3年生に転校してきた奴、いまさっき生徒を虐めてる木村グ

ループに刃向かったんだぜ?」

「え、それってかなりすごくない?」

「でもさ、それけんかをふっかけるようじゃなくて、「いい時計をしてるから」とか何とか言っ

てたらしーぜ」

「えーそれちょっと変わり者じゃんーというか天然なヒーローなのかなー?」

どうやら声のトーンからして1年生のようだ。ちょうど休憩時間なのか、廊下で話している声が聞こえてきた。転校生?しかもその転校生が俺を虐めてた木村に刃向かった

だ?・・・たった一人で?

そのときなぜか左胸の奥がツキンと痛んだ。早くそいつに会ってみたいような、でも絶対

会いたくないような・・複雑な気持ちが入り交じっていた。俺が教室に入っていっても誰も

気づかない。というか気づかないふりをしているだけか。自分の席に着き、机の上に足を

乗せて外を眺めた。

さっきの奴ら・・・3年とは言ってたけど何組とまでは言ってなかったな・・・どこのどいつだ

ろう・・・。2時間目の授業の途中にやっと俺は教室に向き直った。今まで外の明るい所を

見ていたせいか教室の中が妙に暗く見えた。自分の前の席に目をやる。

あれ・・・?確かおととい来たときまではこの席は空席だったはずだ。しかし今はそこに男

子生徒が座っている。誰だ・・・・?不審者か?いすの背もたれの後ろに張ってある名前

シールに目をやった。

三上・・宝?聞いたことねえ名前だな。こいつが転校生か・・・?

さっきの噂の事もあり、少しこいつに興味が湧いた。たぶんこいつが木村に刃向かったや

つだろう。机に載せてあった足でそいつの肩を叩いた。めんどくさいが故に。しかしそいつ

は全然振り向かない。無視してるのか・・・?俺は諦めずにずっと突き続けた。しかしいっ

こうに振り向く気配がない。少し笑いがこみ上げてきた。

「おい、呼んでるんじゃないか」

つい言葉に笑いが含まれてしまった。そう話しかけても尚、前の男子生徒は後ろを振り

向こうとしない。俺はほとんどからかい半分で突き続ける。こいつがどんな反応をするか、

ちょっと気になっていた。

「いい加減にしろ!」

おっと、久々のこの反応。なぜか思わず口元がゆるんでしまう。そいつは俺の足をつか

みあげようとした。ずっと手だと思っていたのか、少しだけ足を睨みつけてから、そのまま

その視線は俺に向けられた。それに足が嫌だったのだと悟る。

「あっ、悪ぃ」

足を机から下ろし引っ込めると、好奇心からか自然と顔が前に出た。

「俺、今来たところで知らんかったけど、あんた今朝、C組の木村たちをやっつけたんやっ

てな」

こいつは本当にその木村に刃向かった奴か分からない。しかし転校生はこの時期にそう

そう来ない。話しかけながら俺は別なものに賭けていた。

「はぁ?」

そいつは悪態を付いてきた。めちゃくちゃ嫌そうに。その視線は俺のことを幽霊でもない

かを見るような目つきだった。

「一人は伸びて、一人は気絶。そしてもう一人は・・・・・・どうなったんだ?」

教室に来るまでに聞いた話を全部整理しながら聞く。しかしそいつは呆れた様子で前を

向いてしまった。

「見たかったなー、あいつらがやられるとこ。実に惜しいことをした。いや、まったく」半分

本音、半分冗談を交えながら俺はそういった。しかし前の奴は全く反応しない。今までに

こんな奴は初めてだった。対外の奴は俺に哀れの目を向けたり同情の目を向けたり。あ

るいは虫を見ているような目で見られた。しかしこいつは俺の事をよく知らないからか思

いっきり睨みつけてきた。普通の普段の俺なら絶対に切れて手を挙げている所だ。しか

し不思議とこいつにそんな感情は抱かなかった。それからも何度か突っついてみたが、

全く反応なしだった。そのとき俺は思った。・・・こいつ、どこか俺に似ていると。


全ての授業を受け終わる(ほとんど寝ているか外を見ていたが)と木村たちが集ってこな

いか警戒しながら生徒玄関まで行った。しかしいっこうに虐めに来る様子はなかった。し

ばらく玄関にいると、木村たちがやってきた。下駄箱の陰に身を潜める。姿を見るだけで

背中がゾクリとした。俺も弱くなったな・・・。

するとそこへ前の席のあの転校生が現れた。その姿を見るなり、木村たちが動いた。

「待ってたぜ、宝君」

そういいながらメンバーの一人が片手に靴を持っていた。どうやらあいつのらしい。

「今朝のお手々が痛いよう」

包帯を巻いた手がやけに大袈裟に見える。こいつは朝、いつもの男子生徒から金をひっ

たくろうとしたやるだろう。嫌みたっぷりにあいつに見せつけている。

「ちょっとお外へ行きましょうか、宝君」

宝と呼ばれたあいつは嫌な顔をしていたが逃げようとはしていなかった。意外と肝が据

わってるのか・・・?投げ捨てられた靴をおとなしく履き、不良グループの後ろをおとなしく

ついて行きやがった。俺はそれの後をつける。そこではっと我に返った。まるでストーカ

ーみたいだ。・・やめるか?しかしあいつがどんな反応をするのか見てみたかった。悪い

ことだと分かっていながらも続けてそいつらの後を追った。人気のない裏庭まで来た。く

るっとみんながあいつに振り返り珍しく木村が言葉を放った。

「さて、今朝の事だけど、覚えてるよね」

その声を聞くと毛穴が全部開いた。ゾワっとする。5対1。俺がいつもやられていたパター

ンと全く同じ状況にあいつは置かれている。だいたいの奴がここで殴られてぼろぼろに

なって帰る。きっとこいつもそうだ。

「宝君があいつの代わりにお金をくれるって言うんなら、話は別だぜ」

木村の次に嫌いなパーマ男が片手を出しながら言った。まるで女性を社交ダンスに誘う

ときのような格好で。きっとここでこいつも切れる。

「いいよ。ちょっと待ってて」

・・・・え?何だって?俺の予想とは全く違う反応をあいつはした。いいよ、ちょっと待って

て・・・?あいつらに対してあんな事を言った奴は初めて見た。だいたいの奴は怖じ気づ

いてしまう。もしくは反抗する。そいつはおとなしく鞄の中を探り出した。この角度から鞄

の中は丸見え。確かに財布はそこに入っていた。しかし・・・。

「あれっ、鞄の中に財布が無いや。教室に忘れたんだ・・・。ごめん。ちょっと待ってて」そ

いつの反応に5人はぽかんと口を開いていた。それに俺も一緒になって唖然とする。その

うち俺の方に向かって走ってきた。そして俺には気づかず通り過ぎていく。そのまま教室

に戻るかと思いきや校門の方に走っていった。あいつ、うまいこと逃げた。陰からもう一

度木村たちの方を見た。誰もその場から一歩も動いていない。もしかして本気で待ってる

のか・・・?笑ってしまいそうになり、必死に笑いをこらえながらその場を離れた。おとなし

く家路につく。・・・あいつ、どこか変わってる。怒るタイミングとか、反応とか、どこか俺と

似ているところがある。しかし俺が思ったような行動は一度もしなかった。その結果あい

つは無事に何事もなく帰った。どこか俺の似ていてどこか違う・・・。


あいつのことが気になって気になって。病院にも行かずに学校へ行った。病気になって

からそんなことは一度も無かった。しかしそれほどまであいつの事が気になっていた。三

上宝・・・。

朝から宝はそわそわしているようだった。何かに迷って言うようにも見える。1時間目を終

えた後、やっと行動を起こした。岬の席まで行く。ああ、そう言えば最近は全く岬とも話を

していないことに気づいた。なのにあいつは席まで行くと軽く咳払いをして、自分を気づか

せた。なんか腹立つ野郎だな。

「あっ、あの・・・・」

木村たちの前では平然としていたのに、今は妙に緊張しているみたいだった。岬はキョト

ンとした目で宝を見た。あーあ、腹立つ。二人から目をそらし外に視線を向けた。しかしど

うしても気になっているのか声だけは耳に入ってきてしまう。

「何?」

何とも拍子抜けするような声が聞こえてくる。

「どうしたの?」

何も言わない宝に心配したようだ。って・・・俺は何してんだ。あいつらの事なんてどうで

もいいだろ。そう思ってたのに次の言葉でまた俺は気になり始めた。

「おとといの夕方・・・お前、どこか行った?」

おい、何でお前がそんなことを聞かなきゃならない?全く訳が分からない。

「えっ・・・・?」

岬は全く同然の反応をした。

「その・・・・・、街の公会堂には行ってない・・・よな」

「は?私が何でそんなとこに?」

本当に腹が立ってきた。声だけでもその様子が分かる。完全に俺はそこから意識を背け

た。しばらく後にいすと机が思いっきり倒れる音がした。それに驚いて俺の視線は外から

教室内に戻る。音のした方を見ると、宝が思いっきり机の中に倒れ込んでいた。んだ

よ・・こいつか。けんかでもしたのかと思った。

「やめてくれないか!」

なんともヒステリックな声が横から聞こえた。あー・・・堀だ。机の上には勉強道具が一式

置いてある。優等生はこんな時までテスト勉強だ。

「君か、ヒーロー気取りもいいけど、今のうちだよ。今に痛い目に遭うから」

いかにもこいつが予言したかのような口ぶりで話す。それにさすがの宝も腹が立ったの

か勢いよく手を上げた。しかしその拳を降ろすことは無かった。でもやっぱり怒りはあるの

か、国語の教科書を乱暴に机の上に投げ出した。それから宝が何か行動することは無

かった。別に四六時中見張ってた訳では無いが。


 放課後珍しく俺は体育館へ足を運んだ。バスケ部が活動する体育館へ。俺はバスケを

医者から禁止されてから、一度も体育館へ顔を出したことは無かった。先輩たちの目を

気にして来なかった訳じゃない。今はその先輩たちは卒業してしまっていない。同級生も

どーでもよかった。かといって下級生だって一人だって顔を知らない。ただ・・・体育館に

来るだけで左胸の奥が痛んだ。あの痛みが戻ってくる。この体育館で倒れた訳じゃ無い

のに。入り口に身体をもたれかけるとマネージャーと話す宝がいた。あいつ・・バスケやっ

てんのか・・・?

「入るつもりは無いから」

そう言う宝の声が耳に入ってきた。少々機嫌を損ねているらしい。練習のしている方に視

線を向けた。部活中の萱島が俺の方を見た。視線が合う。しかし向こうからふいっっと視

線を逸らした。まあ、当然の反応だろう。

「七月の県大会で三年生は最後の試合になるから、もし入部する気持ちになったら、い

つでも来てね」

県大会・・・もう一度国体に行きたい・・・。俺はやりたくても出来ないのに、あいつはやれ

るのにやらない。それが無性に腹が立った。

「強情な奴だな」

気づけばそんなことを言っていた。宝は俺の見ると露骨に嫌そうな顔をした後俺を睨みつ

け、その場を離れようと動いた。

「入りたければ、素直に入ればいいじゃないか」

自分の思っていたことが素直に口に出てしまった。そうだ、入りたくてここに来たなら素直

に入ればいいんだ。

「なんだよ?あんたに言われたくないよ」

宝が普段に無いような態度を見せた。怒鳴ってきたのだ。その怒鳴り声も体育館に聞こ

えるほど大きくは無かったが。

「自分も何もしてないくせに、あんたみたいな奴に説教されたくないね」

それだけを吐き捨てると、その場を大股で去っていった。

んだあいつ・・・。俺に比べれば断然自由な身体なのに、なぜそんなことを言う。それに

別に俺は説教がしたくて口を開いた訳ではない。ちょっと複雑な気持ちで家に帰った。

「ただい・・・」

そこまで言いかけて言葉を止める。ただいまだって?この数年間俺がそんなことを言った

ことは1回も無かった。あの病気になって手術を受けた時から。それなのに、今はなぜか

自然と言葉が出た。いや、でてしまった。妙に思いながらいつものように部屋をスルーす

る。横目でちらりと中を見ると母さんが夕飯を作っている所だった。俺が階段を中間まで

上ったところで俺が帰ったことに気づく。

「あら、リュウお帰りなさい。もうすぐ夕飯出来るわよ?」

「いい、いらねーから」

俺が毎回こんな態度を取っても母さんは普通に話しかけてくる。その話しかけてくるのが

うざいってーのに。沸々と沸き立ってきた怒りを部屋に入るとき、思いっきりドアにあたっ

た。ドアがものすごい音を立てて閉まった。そのまま鞄をその辺に放り投げベッドに身体

を沈めた。

「はぁぁぁぁ・・・」

布団が太陽のにおいがする。母さんが今日干してくれたのか・・・・?そんなことを思いな

がら早い眠りについた。


次の日、昨日早く寝すぎたのか少し頭が痛かった。病院に行ってから学校へ行った。学

校へ行って一時間目が始まっても、前の席に人は現れなかった。おまけに岬までいな

い。二人そろっていないんじゃ気になってしょうがない。先生が教室に入ってくると、二人

は今日休みだということをしらせた。その日俺は早退した。なぜか宝がいないとあまり学

校に長居する気が起きなかった。宝がいない・・・?俺はそこまであいつのことが気にな

ってるのか・・・?なぜ・・?

次の日も病院に行かず学校へ登校。先生たちがようやく驚き始めた。俺が一週間も通院

せず学校に来るなんて事はほとんど珍しい。登校してきた宝は手にぐるぐると包帯が巻き

付けてあった。昨日何があったんだ。岬の机付近で話ながら宝は手の包帯をとった。し

かしそれを見て岬の血相が変わる。その後、宝自身も驚いたようだった。その様子をガ

ムを噛みながら見る。

「さあ、みんな席に座って」

そう言いながら俺たちの担任の笠原先生が入ってきた。それにみんなぞろぞろと席に戻

る。俺は後ろから宝の腕をのぞき込んだ。・・・・は?

「お前、包帯の下には傷一つ無いじゃんか。何のつもりだ?昨日、学校をずる休みするた

めの口実につかったのか?」

しゃべるたびにガムが口の中でくちゃくちゃと音を立てた。ニヤニヤしながら聞く。すると

宝が後ろを向いた。それによけいににやついてしまう。

「お前、岬と登校してくるなんて、もうそんな仲になったのか?」

俺の方は早く登校してきていたため、外を眺めていたら偶然二人で登校する宝たちの姿

を見た。それを見てまた腹が立ったのも事実だ。懸命にその気持ちが声に出ないように

したが、だめだったらしい。少しとげとげとしてしまった。さて、どんな反応をする?

「君の名前は確か・・・・・・・西・・・・何だっけ・・・・」

うわ、このやろ。そう来るか。少し面食らってしまった。人の質問にも答えないで。帰って

きた返事がこれだ。

「西口だ!」

なんかこいつ前と態度変わった・・・・?明らかに前と態度が違う。前は最後まで無視し続

けようとしたのに。今日は話しかけてきた。

「そう」

人がせっかく名前を教えてやったのに、そう短く答えてまた前に向き直ってしまった。休

み時間に入ると案の定岬が宝の机までやってきた。

「岬も知ってたんか?こいつの腕の包帯」

からかい半分に岬に話しかける。おそらく半年ぶりぐらいに岬に話かけた。そんな俺の言

葉に岬はとまどいを見せた。

「こいつの怪我、嘘やったんやぜ」

前よりも少し小馬鹿にしたようないい方になってしまった。なぜかあそこまで落ち込んで

いた気分も宝の前だと少しだけ前の自分に戻るような気がする。

「そ、そう・・・・そんなのいいじゃない、別に」

岬の返事は白々しかった。俺と話したくないとでも言うような。

「ところでよ、知ってるか?お前の座ってる席・・・・」

なぜか俺の口は勝手にそう動いていた。なに・・・?宝にショックを受けさせたいのか?そ

れとも岬に・・・?岬の方を見ると〝だめっ〟というそぶりをした。

「何?」

その岬のそぶりを見てよけいに好奇心をそそられたのか、宝はそう聞いてきた。俺と岬を

交互に見ている。

「いいじゃんか。いつかはわかることだし」

自分がニヤニヤしながらちょっと楽しんでる事に気づいた。

「僕は別に聞いたって驚かないよ」

だんだんじれったそうに聞いてきた。早く教えて欲しいらしい。まだ岬はとまどっている様

子だった。

「あのな、その席に前座ってた奴、お前がここに来る二週間くらい前に死んだんだ」

一瞬でその場の空気がサァーっと冷たくなった。

「え?死んだ?」

宝は岬の顔色を確かめるように見た。しかし岬は前を向いてしまっている。

「そうだ。事故か自殺か未だに謎なんだ。もしかしたら、そこの席に取り憑いてるかもしれ

ないぞ」

俺はわざと怖い声を出した。からかうように。宝はあきれ顔で笑った。

「遺体が見つかったのは、公会堂の裏さ」

さらりと流すようにいった。が、宝からは笑顔は消え、岬の顔はさっきよりも真っ青になっ

た。

「まさか・・・・」

「そんなにびびるなって」

少し宝は身震いをした。なに、これだけでびびったのか?たいしたことねー奴だな。俺は

そんな二人の姿がおかしくなって大声で笑いながら宝の方を叩いて教室を出た。にして

も宝のびびりようは普通じゃ無かった。・・・なにかあるのか?

その後午後の授業も全て終え、俺は朝行き忘れていた病院に向かった。めんどくさい。

病院に行くたびに検査され、薬を渡され、そのせいで所持金が減る。まあまだ学生だから

その金は全てお小遣いから出るのだがそれでも、週に三回の病院通いは中学生にはち

ょっときつかった。

「最近バスケは?」

「いえ、やってません」

「そうか、通りで調子がいいわけだね、大丈夫回復してきているよ」

はっ、何が大丈夫なんだか。未来のあるお若い男子高校生に、生き甲斐だったバスケを

奪っておきながら大丈夫だって?精神面も考えろってんだ。この担当医のせいで、俺の

中学校生活はめちゃくちゃだ。俺はこいつを憎んでいた。

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