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TAKARA

TAKARA西口編
『TAKARA』 執筆のきっかけとは LinkIconこちらへ

 全国大会当日。朝から身体がだるい。ちょっと乗り気がしなかった。しかし俺の中では

体調より部活。とにかく全国優勝を果たす。

「よっしゃぁー!神崎西中ー突っ走っていくぞー!目指せ全国優勝っ!」

「おーーーーっ!!!」

キャプテンが気合いの入った声でそういうと、みんな円陣になって重ねた手を思いっきり

上に上げた。そしてみんなとハイタッチをする。よし、全国優勝をして父さんや母さんや部

員のみんなにうれし涙を流させてやる。

甲高いホイッスルを合図にボールが高く上げられジャンプボールから試合が始まった。中

学校の試合は、8分のクォーターを4回。それぞれの間に2分のインターバル2回とハーフ

タイム1回がもうけられる。その32分の間で決着がつく。4回目のクォーターが終了時に

同点なら延長戦3分がもうけられる。それの繰り返しだ。延長なんてぜってーしねー。は

じめのジャンプボールは俺たち神崎西中に回る。ゴール側にたっていた俺にボールが回

ると、そのままダンクに持ち込んだ。もちろんそれを読んでいた敵はすぐにブロックへと入

る。しかしそこから俺はシュートフェイントパス(※シュートの種類参照)に切り替えた。ボ

ールはうまく横にいた先輩の手に渡る。さすがは先輩。俺の行動をちゃんと先読みしてた

と言うわけだ。相手はまだ状況を飲み込めずにいる。その間に先輩はドリブルでゴール

に近づきリバースダンクを決めた。

「先輩ナイスですっ!」

「西口ナイスパス~♪」

前半15秒。神崎西中に追加点。

「うぉっしっ順調な滑り出しだっ!このまま突っ走っていけぇ!!」

キャプテンが大声でそう叫ぶと一気に雰囲気が変わった。みんな完全にやる気モード

だ。「西口っ!」

名前を呼ばれながら先輩からのパスが回ってきた。それをなれた手つきで受け取ると、

シュートに切り替えた。しかしジャンプ間際でディフェンスに邪魔された。

「そー来ますか」

そのディフェンスを軽々と左に身体を捻り避けると、もう半回転をしてスリーシックスディ

(※)を決めた。

「西口ナイス!」

大声で叫ぶその言葉を受け取ると、パスを出してくれた先輩とハイタッチをする。

「さすが1年生でエースになっただけあるな。いい身のかわし方だ!」

そう耳打ちをされ、もう一度最後に大きくハイタッチをしてからまた位置に戻った。前半約

30秒で4点。まだまだ試合は始まったばかりだ。今日のチームの息はいつにもましてぴ

ったりだった。これなら絶対一回戦は突破できる。と思ったが時間が経つにつれ相手も

だんだんのし上がってきた。別にこっちの体力が落ちたわけではない。

残り時間8分。点数差はわずか3点。3ポイントシュートを1回、フリースロー以外のシュー

トを1回打たれれば俺たちの負けが決まる。少々危ない立場だった。ここは3ポイントシュ

ートで決めた方がいい。そう、ボールを持っている先輩に目で訴えた。先輩もその視線に

気づき強くうなずいた。ドリブルをやめ、3ポイントラインの位置に立った。周りのメンバー

が何とか相手を抑える。先輩が構えた。みんなは先輩の周りによるが、俺だけはゴール

下まで行った。先輩の手からボールが離れた。放たれたボールは綺麗な弧を描いてゴー

ルまで向かった。しかしそのボールはゴールのフレームに弾かれて飛んだ。

「あっ」

誰もがそう短く声を上げた。俺はそこをねらった。ボールが跳ね上がると同時にジャンプ

し、ゴールに入らなかったボールをゴールの中に押し込んだ。タップダンク。決まった。残

り時間5分。そこで3ポイントシュートを決められ差は2点。それからはしばらく両方とも点

数が入れられない状態が続いた。はじめに動いたのは相手のチームだった。何の変化も

なく両足を付いたまま両手で打たれたシュートが見事に決まってしまった。これで点差は

0点。残り時間1分。俺はキャプテンの方を見た。アイコンタクトをするとお互いうなずい

た。『西口、ラスト決めろ』。1回戦ラストのボールが俺に渡された。最後、必ず決めてや

る。ゴールまで10メートル。7メートル・・・5メートル・・・。そのとき胸の奥がドクンと脈を

打った。

「・・・・!?」

痛さと驚きで目を見開き、立ち止まってその場に崩れた。俺の手からはラストボールが転

がっていく。息が出来ない。胸が苦しい。痛い・・・。遠のく意識の中でメンバーのほとんど

が俺の方に近づいてくるのが目に入った。そこで俺は気を失った。痛さと、苦しさで。


 重たい瞼を無理矢理押し上げた。急に目にまぶしい光が入ってきたため、反射的に目

を瞑る。それからゆっくりと開けた。見慣れない天井。・・・ここはどこだ・・・?少し首を動

かすと、俺の寝ている隣に、父さんと母さんの姿があった。反対側には萱島がいた。少し

動くと、みんな俺が目を覚ましたことに気づいた。

「リュウ・・・瑠斗っ!」

珍しい。母さんが俺の名前をちゃんと呼ぶなんて。

「母さん俺・・・」

母さんは少し口ごもった。そんな母さんの代わりに、萱島が口を開いた。

「おい、西口・・・大丈夫か?」

大丈夫だと小さくうなずく。そこではっとあることに気づいた。

「試合は!?試合はどうなった!??」

上半身を勢いよく起こすと、また左胸の奥に痛みが走り、思わず手で押さえた。そして丸

くなる。それに驚き、俺を心配して、萱島が手を差し出してくれた。遠慮なくそれに掴ま

る。父さんも立ち上がり、母さんは俺の背中をさすった。少し経っても痛みは治まらなかっ

たが、試合のことが気になる。

「萱島・・・試合・・どーなった・・・?」

胸を押さえながら、痛みにこらえて聞く。俺のその言葉を聞くと、萱島はうつむいてしまっ

た。この反応は・・・。

「試合・・・さ・・・」

やっと言葉が放たれたと思ったら再び閉じてしまった。その続きが聞きたいんだ。負けた

のか勝ったのか。それは誰の所為なのか、栄光なのか。聞きたい、早く聞きたい。

「俺たちが・・・」

勝ったのか?負けたのか?それとも・・ドロウ?

「・・・負けたんだ。・・1点差で・・」

え・・・・負けた?俺たちが1点差で?それって俺のせい・・?

「・・・そん・・・な・・」

後1点で負けた。後1点で・・。俺のせいで、俺が倒れたりなんかしたから・・。俺は絶望

感と罪悪感で身体の力が抜け、ベッドに倒れ込んだ。

俺のせいで・・・俺のせいで・・・俺の・・っ!!!両手で顔を隠して泣いた。止めようとし

ても涙があふれ出てくる。ひどく嗚咽しながら何時間も泣いた。

ようやく収まったところでまた一番最初に目に入ってきた真っ白な天井が目に入った。家

の自分の部屋のクリーム色の天井とは違う。まだ父さんも母さんも萱島もいる。その中で

一番この理由にちゃんと答えてくれそうな父さんに話しかけた。

「・・・父さん・・ここどこ?」

「ここは病院だ」

父さんは思った通り何のためらいもなく、ちゃんと俺の今の居場所を教えてくれた。おそ

らくこれが母さんや萱島に聞いていたら、またうつむいて、ちゃんとした答えを聞くまでに

時間がかかっていただろう。

「入院しなきゃならねぇ?」

その質問にも、なぜか父さんは普通にうなずいた。力強いものではなく、どこか弱々しか

ったけど。

「どんぐらい・・?」

「さぁ・・・まだ入院することしか決まってない。だからまだどれぐらいになるのか・・・」

俺はすぐにこれが嘘だと言うことを悟った。完全に父さんの目が泳いでいる。父さんは普

段話す時人の目を見て、絶対に視線を離さずに話をする。しかし自分の都合が悪くなる

と決まって目は一点に定まらなくなるのだ。

「この左胸の奥の痛みって・・・俺もしかして・・・」

「違うわ!違う、違うわ・・・」

俺がどこが悪いか言う前に母さんが口を割って入ってきた。何度も違う、違うとつぶやい

ている。しかしおそらく俺の予想は当たっているだろう。心臓が・・・悪い。しかもこれだけ

痛むということは悪性か。

一週間何も話してもらえず、母さんが毎日のように俺の見舞いに来て、友だちも何人か

見舞いに来てくれた。だけどその間も不安でいっぱいだった。

「西口さん、瑠斗君の事でちょっとお話が」

ある日、母さんが医者に呼び出された。表情は尋常ではない。どうやらかなり深刻な話ら

しい。俺はどうしてもその話が聞きたくて、足音が遠くなったときに、後をつけていくことに

した。ここは離れ病棟か・・・?全く患者さんとすれ違わない。母さんは一カ所の部屋の中

に通された。その部屋に近づき、ドアに耳を当ててそば耳を立てた。

「お宅の息子さんの瑠斗君なんですが・・・」

そこで医者はいったん言葉を切った。

「やはり心臓病と診断されました」

「・・・・心臓病・・・?」

そう問う母さんの声が少し震えているのが分かった。俺はドアに思いっきり耳を押しつけ

る。

「心臓病の中でも種類はたくさんあります。息子さんの場合、狭心症と言う病気の症状が

伺われます。すぐにでも手術をしなければ、大変危ない状況に置かれています。

・・・・は?今手術って・・・?

「・・手術・・・ですか?」

俺が疑問に思ったことをそのまま母さんが医者に聞いてくれていた。

「ええ、ここまでよく手術をせず、普通に生活して来れたのが不思議なくらいです」

はっと母さんの息をのむ声が聞こえてきた。

「ご主人さんを呼んでいただけますか?」

父さんに俺が盗み聞きをしているとばれたらまずい。すぐさま自分の病室に戻った。医者

には感情がないんじゃないかと俺は今更ながらに思った。全く無頓着のように感じる。

それにしても手術だなんて・・・?そんなに悪いのか・・・?

1時間弱時間が過ぎると、ようやく父さんと母さんが病室に入ってきた。父さんはどうやら

仕事を切り上げて病院に来たという状態だった。

「リュウ・・・」

父さんは俺の姿を目に止めるなり名前をつぶやいた。

「父さん・・・何?」

俺はあくまで冷静に何も知らないようなふりをして、父さんの呼びかけに答えた。呼びか

けかどうかは定かではないが。

「いや、なんでもない」

何か言おうと口ごもってたようだったが、結局何も言わず口を閉ざしてしまった。母さんは

その後ろで目を真っ赤にしている。ああ・・・泣いたんだ。手にはちゃんとハンカチが握ら

れてた。丸い来客用のいすに腰掛けると、思い切ったように父さんが口を開いた。

「リュウお前はな・・・」

「分かってる。言わなくてもいいよ」

俺のその言葉に二人とも驚いた様子だった。その反応が当たり前だと思う。今医者から

聞いた話はまだ医者と父さん、母さんしか知らないはずだから。

「・・・俺手術しなきゃならねーんだろ?しかも心臓の・・・」

「リュウあなた・・・」

母さんが口を手で覆った。

「うん、ごめん。俺立ち聞きしてた。父さんが来る前まで。それでだいたい分かった。今す

ぐ手術しなきゃ死ぬってことも」

二人は申し訳なさそうにうつむいた。俺は二人のそんな顔を見たくない。

「二人ともそんな顔すんなよ。俺まで不安になるって」

苦笑いを浮かべていると言うことが自分でも分かった。ごめん・・・。

「手術・・・明後日だそうだ・・」

「は・・・早・・・」

手術の早さに驚いた。明後日?普通一週間後とか二週間後とか・・・。それだけ俺の病

気が危ないということだ。それから2日間、俺は気が気じゃなかった。今更ながら、あの

日にやって欲しかったぐらいだ。手術への緊張が高まっていくばかりだった。しかしそん

な心配もなく、手術を終え、ちゃんと成功したという知らせも受けた。そこで俺と父さんと

母さんの3人は安堵のため息をついた。

「バスケを続けてもかまいませんが、あまり激しく動き回ったりしないでください。出来れ

ば、バスケは避けていただきたい」

そんなことを退院間際に言われた。それじゃあ出来ないってか・・?ふざけんな、意地で

もやってやる。俺は2ヶ月の入院生活を終えて、家に帰った。さすがに一ヶ月ぶりの家は

懐かしかった。その次の日から俺はまた普通通りに学校へ通った。久しぶりの懐かしい

友達と会う。いつものようにじゃれ合って遊んだ。

「西口君、大丈夫だった?身体。ちゃんとお見舞い行けなかったけど・・・」

岬がなぜか申し訳なさそうに俺に話しかけてきた。

「全然だいじょーぶ。そんな俺なんかのためにわざわざ見舞いに来なくたっていいって」

笑顔で返す。なぜか岬には余分な心配は掛けたくなかった。とにかく話していられるだけ

でいい。しかしそんな日々も長くは続かなかった。またあの不良グループが絡んで来るよ

うになったのだ。また前と同じ事の繰り返し・・・・。


「ただいまー・・・」

力なく言葉を発すると、中からは元気のいい母さんの声が聞こえてきた。

「おかえりなさいー!」

靴を脱いで部屋に入ろうとした瞬間。左の胸の奥が痛み出した。

「母さ・・・・」

必死で母さんを呼ぼうとするが、痛みのせいで声が出せない。なかなか部屋に入ってこ

ない息子を心配してか、母さんが部屋から顔をだした。俺の姿を確認するとみるみるうち

に顔から血の気が引いていった。俺の側に駆け寄ると、抱き起こした。

「リュウ、リュウ大丈夫!?リュウ!」

「かあ・・さ・・・」

母さんは俺の頭を自分の股に置いたまま、近くにある電話をたぐり寄せ救急車を呼んだ。

数分出来た救急車に乗せられ、俺は病院へと運ばれた。


目を恐る恐る開ける。病院に運ばれてからの記憶が全くない。おそらくあそこで気を失っ

てしまったんだろう。どうやら話によると俺はそのまま手術を受けたらしい。また同じ天井

が目に入る。

「お医者さんね・・・もうバスケとかの激しい運動は完全にやめなさいって。後一日3回薬

を飲むようにって」

「・・・」

俺は黙りこくっていた。今はなぜか人と話をしたくない。危ないところを助けてくれたはず

の母さんにまで。母さんはしゃべらない俺に気を遣ってか病室から出て行った。いや、お

そらく居づらかったのだろう。

部活をやめろだ?後4ヶ月程度でキャプテンが俺たちの世代に移る。それなのにやめろ

って?別にキャプテンをやりたい訳じゃない。しかし、自分のせいで全国制覇を果たすこ

とが出来なかった。自分のためにも自分がみんなを引っ張って全国大会に連れて行か

なきゃと思ってた矢先に・・・。もう、やりきれない。

病院は無事退院したモノの、結局病院通いになってしまった。週に3回。必ず病院に来な

ければならない。そんな俺に、父さんや母さんは勇気づける訳でもなく、なぜか同情の目

で俺を見てきた。俺はそれが無性に腹が立った。

2度目の退院からというもの、俺は周りのつきあいが、だんだん悪くなっていた。友達とも

最近あんまりつるんでいない。つるもうとすると無性に腹が立ってくるのだ。それもたぶん

友達まで俺に同情の目を向けてくるから。萱島と岬だけはそう言う事はしなかったが、ま

た別の違う視線が向けられているような気がした。俺はそれから何度も入退院を繰り返

した。でも入退院はそれほど嫌じゃなかった。学校の奴らとも関わらなくてもいい。でも毎

回顔をゆがめる母さんが嫌いだった。父さんもだんだん毎回文句を言うようになってき

た。まるで母さんをかばうように。あれほど好きだった父さんと母さんはだんだん嫌いにな

ってきた。姿を見るだけで腹が立ってくる。家にいるときなるべく親と顔をあわせなくても

いいように部屋に閉じこもっているようになった。

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