
『TAKARA』 執筆のきっかけとは
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12
次の日教室に入ると、それに気づいた生徒たちが一気に俺の周りに集まってきた。
「なあ、堀が木村にやられているところを西口が助けたんだってな。すごいなー、傷を負
ってまで守ったなんて」
は?どこからその誤った噂は流れ出るんだよ。何度も同じ質問をされるため、俺はめんど
くさくなってきた。徐々に話を受け流し始める。
しばらくしてようやくみんなから解放され、岬に近づいた。
「もーほんとーに嫌になるよな」
「いいんじゃない?たまにはちやほやされても」
「うっわーひどいこと言うなー・・・」
と、その時、突然岬の目つきが変わった。目つきは変わったものの、岬を取り巻くオーラ
は変わらなかった。
「洞窟だわ」
呟いて教室を飛びだした岬の後を追った。反対側の廊下から、走ってくる宝と黒沢と合流
した。突然教室から一人の先生が、錯乱状態で廊下に飛び出てきた。
「職員室?」
黒沢がそう呟くと否や、先生を追ってきた黒い影が、一瞬にして先生を飲み込んだ。
「黒沢は職員室の中へ!」
さっさと役割分担をすませた宝は、自分はその黒い渦の中に飛び込んでいった。俺は、
俺はどうすりゃいい。前みたいな訳にはいかない。俺は死を覚悟で、渦の中に転がり込
んだ。体勢を整えると、ちょうど宝の足下にたどり着いた。近くに倒れている先生を引っ張
った。
「俺に任せろ!」
ずるずると引きずりながら黒い渦の中から抜け出した。あまりの重さに、すとんとし尻餅を
ついた。すると自然に先生を抱える形になる。俺はその先生の顔を見て絶句した。鬼魔
と戦った宝は行きを荒げながら近寄ってきた。
「大丈夫か?」
「俺、助けちまったよ。こんな先生を」
ありえなさすぎて半分笑いが混じってしまう。俺が死ぬ気で助けた先生は数学の、あの
大熊・・・中島だった。
「ありがとう」
ぼーっとしている俺にそう呟くと、すぐに立ち上がった。
「ここを動くなよ!」
本当に今回だけはそうしていたほうが良さそうだ。俺は素直にうなずいた。それを見届け
た宝は思いっきり職員室の中に飛び込んでいった。
どれぐらい待っていただろう。職員室のドアの揺れが治まった。それから何も変化が起き
ない。宝はここにいろと言ったが、もう黙って見ていられない。俺は中島をそっと床に寝
せ、自分は職員室の中にはいった。中はまだ白いもやがかかっていて、少々見えずら
い。書類が吹き飛び、パソコンのマウスはだらしなく机から下に垂れ下がっていた。岬と
黒沢の姿はすぐ見つかった。二人とも先生たちの意識を確認し、鬼魔を追い出していた。
しかし宝の姿が見つからない。俺は、職員室の先方の方にいった。ちょうど教頭の机の
前で下を見ると、そこに、教頭に首を絞められている宝の姿があった。その顔は今にも死
にそうだ。宝の首を絞める教頭の血相は半端じゃない。俺の身体が動いた。近くにあっ
たいすを持ち上げ思いっきり横から教頭の頭をめがけて振り下ろした。
「宝、大丈夫か!」
自分自身も息を荒げながら、ごほごほとむせる宝を見た。
「どうした!」
俺が教頭を殴った音で気づいた黒沢と岬が、先生を放り出し、飛んできた。
「教頭先生は・・・鬼魔の手下だった」
宝はまだ首を押さえながら教頭を見ながらそう呟いた。
「え?」
岬が驚きを露わにした。
「僕を今、殺そうとしていた」
「鬼の形相だったぜ」
いすを放り投げ、教頭を上向きにひっくり返しながらそう呟いた。
「出てこい!そこにいるのはわかってる!」
宝は教頭の胸辺りに手をかざし中にいる鬼魔に呼びかけた。手から赤い光が広がると、
半開きになっていた教頭の口から、普通の鬼魔より、さらにどす黒い色をした煙が天井に
向かって出てきた。
「生き長らえたな・・・・でもきっとお前たちは地獄に堕ちるだろう。天魔様の力によって」
どす黒い陰は弱々しくも、そう言うと、校長室の方へ消えていった。はっとして教頭に視線
を移すと、あろうことか、どんどん表面から腐り始めた。
「何故だ・・・」
「教頭の身体を完全に乗っ取っていたんだな」
宝の質問に黒沢が答えた。教頭はみるみるうちに肉が解け、骨が現れ、最後にはその
骨さえも消えてしまった。
「どうして・・・そんな」
「完全に鬼魔に心も体も渡してしまったのだろう」
その黒沢の返答に、宝は怒りのままに床を叩いた。
「こっちだ」
そのまま校長室を睨みつけ、立ち上がり、そっちの方へと走り寄っていった。校長室に入
ると、歴代校長の写真が飾られている額の下の壁の黒い消えそうな穴に宝が飛び込ん
で行く所だった。岬、俺、黒沢と続けて飛び込んだ。完全に入り口がふさがれてしまった
のか、中は真っ暗だった。それに鳥肌が立つほどに寒い。
「何だ、ここは・・・」
俺はとてつもない不安に駆られ、そう呟いた。
「何も見えないわ」
ちゃんと岬もいた。
「宝・・・前はどうなっている」
「分からない。でも歩いてみよう。みんな手をつなぐんだ」
その言葉のままに、手を探り当て、きっちりと握った。手の大きさからして、前が岬、後ろ
が黒沢だろう。なんて事はどうでもいい。足も探りながら身長に少しずつ前に進んだ。「誰
かがいる」
ふと宝がそう呟いた。
「嘘だろ」
後方から声がした。
「この辺りだ・・・一人じゃ無い」
「そんな・・・まさか」
気づくと俺はそう口走っていた。
「死んでるの?」
岬は小さく、声を震わせながら聞いた。
「いや、温かいから、たぶん死んではいないだろう」
「この人たちは犠牲者かも・・・」
黒沢は俺から手を離し前の方に行き、確かめた。岬からも手を離した。みんな丸くなるよ
うにして、その人たちを囲んだ。すると突然俺たちの後ろからまばゆいばかりの光が差し
た。その光に照らし出された数十人の人たちを見て、驚いた。山のように積み上げられ、
大人も子供も無差別に放り投げられているような形になっていたのだ。
「何てことを・・・」
岬は口を両手で塞いだ。俺は光の差す方向に歩いていった。
「宝!来てみろ。出口だ」
一度外を確認してから中の3人に向かって叫んだ。ようやく光のある所に出られた。あ
れ・・・どこかで見覚えがある。
「どうして・・・ここに・・・・?」
最後に俺が洞窟から出ると、横で岬はさらに驚いた顔をし、完全に口を手で塞いだ。そう
だ、ここは確か岬の家の裏庭だ。
「君のお母さんは?」
辺りを見渡した宝が質問した。
「え?家の中にいると思うわ・・・・」
それを聞くと、すぐに宝が走り出した。
「君のお母さんが危ない!」
宝の中で何かがつながったのだろう。そう叫びながら裏庭の大きい窓から中に入り、部
屋中を見渡した。その後からぞろぞろと続いて入る。
「誰もいないぞ」
人気を無いことを確認しながら呟いた。
「きゃあ―――!」
二階から突然女の人の叫び声が聞こえた。
「二階だ!!」
どたどたと螺旋階段を上ると上の方に鬼魔たちが数匹うごめいていた。
「お母さん!」
「岬?岬なの?助けて、何なのこれは・・・・」
一番奥の部屋から、さっきの叫び声の主とみられる岬の母さんの声が聞こえてきた。向
かってくる鬼魔たちを宝が倒しながら、俺たちは前に進んだ。部屋の中に入ると、鬼魔た
ちがいるせいか、変に部屋は薄暗くなり、異様な悪臭が鼻を突いた。部屋の中央部に鬼
魔に押さえられた岬のお母さんが立っていた。
「宝・・・・君」
どうやら宝とは面識があるようだ。涙声で恐怖に支配されているようだった。
「その人を離せ!」
じりじりと宝は中央部の鬼魔ににじり寄った。
「やっぱりついてきたか・・・こ奴が死んでもいいのか?」
どうやら今岬のお母さんの首に巻き付いている鬼魔は、今のいままで、教頭を支配して
いた鬼魔らしい。
「離せといったら離すんだ!」
その間もじりじりと間隔を縮めていく。
「殺すぞ・・・」
鬼魔は岬の母さんの首にナイフのように鋭い爪を立てた。
「一突きで終わりだ」
「止めろ!」
宝は反射的に胸の前に手を組んだ。
「やってみろ。こ奴に当たらずに出来ればの話だが」
その鬼魔は得意げに言った。不気味に部屋中に響き渡る。宝から視線をずらし、前を見
ると今にも襲ってきそうな鬼魔たちが漂っていた。なんど見ても気持ち悪い。
「お母さん!」
ようやく鬼魔を倒してたどり着いた岬が今のお母さんの状況を見て驚愕した。
「卑怯だぞ!」
黒沢も震えながら言う。
「岬・・・助けて・・・」
自分の娘を確認した岬のお母さんが、とぎれとぎれに呟いた。
「どうしろというんだ!」
宝は怒りにまかせて叫んだ。鬼魔を睨みつけている。
「こ奴を助けたければ、あの水晶を持ってこい。見ただろう、水晶はあの人間の山の中に
隠れている」
「何だって?」
水晶を隠すためにあの人たちを引きずり込んだと言うのか?どうやら鬼魔たちは自分た
ちのためなら手段を選ばないらしい。
「そう、神社からあの水晶を洞窟へ持ち込んだんだよ・・・フフフ」
鬼魔が不気味に笑った。
「そうか・・・谷屋を襲い、利用したのはそのためだったのか」
「ああ、そうだ。犬の散歩に出たあの娘をあの中に引きずり込み、そして神社の社に侵入
させた」
「でも・・・水晶に触った谷屋をお前たちが襲う事は出来ないはずだ」
今の宝は怒りに支配されているようだった。
「娘は触っておらぬ。取ってきたのは娘ではない」
「何だって?」
それには俺も耳を疑った。
「あの水晶を取ってきたのは犬の方だ」
ほんとーに鬼魔って奴はどこまでもばかげたことをするんだな。犬を使ってまで水晶を動
かしたかったのか。
「畜生はあの水晶に触ったところで何の変化も起きぬ。却って我らの命令に忠実に従う」
「そんな・・・じゃあ、犬を使って水晶をあの洞窟の中に持ち込んだのか?」
「いい考えだろう?娘は殺すつもりだった。だが、あ奴の罪も些少だったらしく我らは手を
下せなかった。だから、鬼魔を憑かせ外に出したのだ」
何がいい考えだ。反吐が出る。谷屋は自分の罪の少なさから、命は助かったらしい。
「何のために水晶を持ち出したんだ!」
宝はがなった。
「いいから、早く言うことを聞け!!早く持ってくるのだ!」
鬼魔ももう耐えられなくなったらしく、イライラし始めた。岬のお母さんの首元に当ててい
たつめにぐっと力を入れた。爪が首にめり込む。
「・・・・わかった」
俺以外の3人はお互いに見つめ合い、うなずくと宝は一目散に部屋を飛び出して行った。
宝が出て行った部屋はただならぬ雰囲気が流れていた。微動だに出来ない。少しでも動
いたら近くにうごめく鬼魔たちに襲われそうだった。
目の前にいる鬼魔はイライラを募らせ、さっきよりも爪を岬のお母さんの首にめり込ませ
た。
「いやだ・・・・・やめて・・・・」
岬が声を震わせながら訴えた。
「遅い!!」
ようやく待ちに待った宝が部屋に戻ってきた。手には水晶を抱えている。それは綺麗な
虹色に輝いていた。思わず見とれてしまう。
「もう少しで殺してしまうところだったぞ!」
「・・・・これをどうするんだ」
これでも最速のスピードだったらしい。宝は肩で息をしていた。
「お前たちの力でそれを壊すんだ!」
「何だと!!」
そう叫んだのは黒沢だった。
「そんなことをすると思っているのか?」
宝はまさかという視線で鬼魔を見た。
「じゃあ、こいつはどうなってもいいんだな」
今にも岬のお母さんの首の皮膚が裂けてしまいそうだ。そのぐらいにめり込んでいた。
「ああ・・・岬・・・・」
真っ青な顔をした岬のお母さんは、恐怖でものすごい顔をしていた。
「さあ・・・やれ」
黒沢は小さく宝に耳打ちをした。その時宝は一瞬俺に目配せをした。へえ、上手に俺を使
ってくれるな。ちゃんと俺の思っているように事が運べばいいけど。
俺は宝の後ろから抱えている水晶をひっつかみ、一歩前にでた。
「仕方がない!岬のお母さんを助けるんだ!さあ、これを壊せ!!」
3人とも驚いた顔をした。何だ?こういう意味じゃ無かったのか?しかし3人は顔を見合わ
せ、頷き、胸の前に手を組んだ。ちょうど後ろに鬼魔がいる。そうだ。
三人のパワーが充満し、放たれようとした瞬間、俺は水晶を抱え込み、横に転がり逃げ
た。三人の手から放たれた光の玉は、鬼魔の頭をめがけて飛び、思いっきり貫いた。
〝ウォオオオオオ〟
奇妙なうめき声が部屋中に響き渡り、鬼魔は姿を消した。すると同時に周りにうごめいて
いた鬼魔たちが一斉に宝たちに飛びかかっていった。
「止めろ!お前たちは引っ込んでいろ!!」
しわがれた声が、俺の横から聞こえてきた。その声に、鬼魔たちは大人しくなり、後ろに
引いた。
「ふ、ふ、ふ。よくもやったな」
ふらりと倒れ込んでいた岬のお母さんが立ち上がった。
「お、お母さん?」
岬は驚きながらも一歩前に出た。
「素直に従えばいいものを・・・・」
立ち上がった岬のお母さんの髪は逆立ち、顔は浅黒く、目は充血したように真っ赤にな
った。ひどい。元の美しい岬のお母さんとは比べものにならない。
「お前が・・・・」
「そんな・・・お母さん、お母さん!!」
岬は狂ったようにそう叫び続けた。
「くっくっく・・・やっぱり愚か者だ、お前らは。我を見抜けなかったとは」
は?何を言ってるんだ?何者なんだ、こいつは・・・・。
「お前が・・・鬼魔の言っていた天魔なのか?岬のお母さんに乗り移っていたのか!?」
確かさっき教頭に乗り移っていた鬼魔が言っていた。天魔様の力によって、と。その天魔
様っていうのが今岬のお母さんに乗り移っているのか?
「そうだ、あの女はもう二年も暗い闇で眠り続けているわ!」
天魔は甲高く笑った。
「何ですって!」
岬も負けずと声を張り上げた。
「お前たち親子が神社に近づいた時からだ。あのとき、鬼魔どもがお前の父に取り憑き、
そして我はお前らを探しにきたこの女に乗り移ったのさ」
「そんな・・・・・」
「ずーっとお前の母を演じ続けて来たのだ。魂を閉じこめ、後天の脳の働きを操るのはた
やすい。我はお前の父の意識が戻らぬように、そしてお前を監視するために側で見張っ
ていた」
「で、でも・・・・お母さんは・・・・いつもと変わらなかった・・・・」
よほどショックらしい。岬の声は震えきっていた。そりゃそうだろう。実の母親が2年も長い
間、実の母親であって、そうでないのだから。
「だから、言っただろう。後天の脳を支配し、依然と変わらぬ態度でお前と接していたの
だ。魂の弱い人間を操ることぐらい訳が無い。お前の母はとても弱く、無力だった。時とし
てお前を想う力が我を追い出そうと逆らったが、やはり目覚めていない人間は弱い」
「酷いわ!お母さんを返して!!」
泣き泣き叫んだ。もう自分自身で何を言っているのか分かっていないんじゃ無いかと言う
ほどに。
「返すとも。我らの目的が達成されればな。ふふふ」
またもや天魔は気味悪く笑った。
「どういう意味だ!」
次は宝が叫んだ。まあよくこんな次から次へと叫べるもんだな。
「我らはこのときを待っていたのだ。あの水晶を破壊するために・・・・」
岬のお母さんを乗っ取ったまま、宙に浮いた。そして俺たち全員を見下ろす。

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