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TAKARA

TAKARA西口編
『TAKARA』 執筆のきっかけとは LinkIconこちらへ

11

それから怪しまれると行けないため、俺たちは一度学校に戻った。まだ調べているのか

パトカーが2台止まっている。

「調べてもわかる訳ないのにな」

俺はそいつらをせせら笑うように言った。洞窟も、先生たちを襲った鬼魔って言う化け物

も、もう無い。

「隠れて入ろう」

そんな俺を無視するかのように、宝はそう言うと、窓から外を見ている生徒たちを見た。

宝の提案で、岬、俺と時間をずらして校舎の中に入ると、宝を待つためゆっくりと歩いてい

たら、宝はものすごい早さで俺の横を通り過ぎていった。

「・・・・何だ?あいつ」

明らかに様子がおかしい。こんな面白そうな事を放っておく俺じゃ無い。すぐに後を追う

と、屋上に向かっていた。走ってきたままの勢いで屋上のドアを開けると、行く場所は決

まっているのか、その一点に向けて一目散に走り出した。俺が開いたままの屋上のドア

に手を突いてからほぼ一瞬だった。

「江藤!」

宝はそう大声で叫びながら屋上のコンクリートをつかむと、今何かが落ちていった方に身

体をずらし、そいつの手を片手でつかんだ。

「あ・・・・・やだ・・・・たっ、助けて・・・・」

この声はあのいじめられっ子の江藤の声だ。どうやら江藤は自殺しようとしていたらしく、

そこを間一髪で宝に助けられたらしかった。

「起きてこい!」

そうは言うが、江藤もなかなか上がって来れないらしかった。どうする?助けるか?

だんだん宝の顔を苦痛に耐える顔になってきた。今助けに行かないと、二人とも下に落

ちて行ってしまいそうだ。しかしふっとした瞬間、ドサッという音がした。宝が江藤を引き上

げたのだ。・・・・・火事場の底力・・・?

「江藤!大丈夫か?」

宝はしびれているのか、片手をさすりながら横に寝ている江藤の顔をのぞき込んだ。江

藤はそれを無視するように、反対側を向いてしまった。

「どうしてあんな事をするんだ。自殺なんて最低な事だぞ」

その口調はお叱りのようだった。江藤はしばらく黙っていたが、ようやく涙声になりながら

しゃべり始めた。

「僕なんか・・・・僕なんかいなくなっちゃえばいいんだ。いじめられるのはもう嫌だ。死ん

だ方がましさ。せっかく警察も来てたのに・・・・」

その声は憎しみに満ちていた。俺は悪いと思いながらも、なぜかそこから離れなかった。

ドアを背にして座り込む。そして静かに話を聞いた。

「そうさ、死んだ方が楽に思えるよな。僕も毎日そんなことを考えて来たから」

そう言う宝の声は少しトーンが低かった。毎日だって?宝がか?

「でも、死んでしまっても楽になんかなりはしないんだよ。きっと今の苦しみが一層深く苦

しみに変わり、永遠に逃れることはできなくなるんだ。ましてや自殺という行為だ」

思った通り、宝は説教じみた事を言い始めた。きっと俺はこれが聞きたかったから、悪い

と思いながらもここに残ったんだと思う。

「なあ、動物は決して自殺はしないんだぞ。何故だかわかるか?僕はこのことに何度も

疑問を持った。でもその答えはわからなかった。だけど最近、その意味がわかりかけて

きたんだ。それはきっと動物たちは生きることの意味を知っているからなんだ。理解して

いないのは人間だけなんだ。この世に生まれた訳を知らずに・・・いや、思い出さずに生

きているのは人間だけなんだ」

宝は大空を見上げた。

「僕たちが生まれてきた理由の一つは因を果たすためらしい。それなのに途中で逃げ出

し全うしないことは、再び自分の魂を輪廻の中に永遠に封じ込めてしまうことになるんだ。

動物たちはその生命の中で因を果たし、再び人間に生まれ変わろうとしている」

「輪廻・・・」

「輪廻・・・・か・・」

俺の声と、江藤の声が重なり合った。俺の方は囁きにしか過ぎなかったが。

「この世に生まれてきて、人生を全うすることは神との約束だ。自ら途中で逃げ出すこと

はしてはいけない。逃げ出した者は永久にその状態のまま闇に放り込まれる。再び人間

界に生まれることは無い」

「そんなこと言ったって、このつらさに耐えて生きるなんて僕には無理だ・・・」

江藤の声はまだ涙声だった。何かを必死に伝えようとしているらしかった。

「つらいかもしれない。でもそれを作り出したのはお前自身なんだ。お前も逃げることしか

考えていないみたいだな。前の僕と同じさ。でも逃げていちゃ駄目なんだ」

「僕だっていろいろしたさ。そして君にも助けを求めたじゃないか。友達になってくれると

約束してくれたじゃないか。だけど君はあれから僕のこと何て忘れてしまっている。どうせ

僕は厄介者なんだ」

助けを求めた・・・。それって逃げなんじゃ無いのか?前にも宝は言っていた、自分が作り

出した原因を外に向けていると。外部の人が原因だとしていると。今の江藤が言ったこと

は、それと全く同じような気がした。宝は大きくため息をつくと、また話し始めた。

「いじめられるのは理由があるんだ。過去にお前がいじめられる原因を作り出している」

「僕は何もしてない!」

上半身を起こすと、ありったけの力を振り絞って江藤がそう叫んだ。

「今生では無いかもしれない。だけど前世にあったとしたら?反対にお前があいつらをい

じめていたのかもしれない」

「そんなの信じろっていうの?馬鹿げてる」

前の俺と全く同じ反応だった。俺もたぶんあのときこんな顔をしていたと思う。江藤はこれ

までに見せたこと無いぐらいの顔で怒りを表していた。

「いいか?僕があいつらにお金を渡したことがあるだろ。あれはあいつらに返すお金だっ

たと思ったからだ。そうすれば腹が立たない。自分のお金だと思うから悔しいんだ」

「でも、あいつらにそんなことをしていたらお金がいくらあっても足りないじゃないか」江藤

は口をとがらせて反抗する。

「自分だけが犠牲者だと思っちゃいけない。悲劇のヒーローじゃないんだ」

「そんなこと思ったことなんかない」

「お前も〝自分だけが何故いじめられなくちゃならないんだ?どうして誰も自分を助けてく

れないのか?〟そんなふうに外に求めてばかりいるんだ。現にお前は僕を責めている。

そうじゃないんだ。お前を助けられるのはお前しかいない。お前の考え方、物のとらえ方

を変えれば状況が一変する。自分を振り返るんだ。自分の考え方に疑問を持つんだ。恨

んだり腹を立てては駄目だ。それがまた原因となり、再び自分に返ってくる」

言い方は違うが、俺が思ったこととほとんど同じだ。物事の基本はこれか・・・?外に求め

るから悪い。本当に求める物は自分の中にある。ってか?

「・・・そんな簡単にはできる訳がない」

そう言った江藤の声は聞き取れないぐらいに小さかった。

「やられたら、借りを返したと思えばいい」

「そんなこと言ってたら虐められている方が悪いとまた虐められるじゃないか!」

「それに耐えるんだ。そして虐められないように工夫するんだ。虐められる原因を直すん

だ。そうしないとお前は虐める人間にも悪い種を蒔かせてしまう。お前を虐めたという種を

蒔いてしまうから必ずその種が生長し実を結ぶ。そうなれば今度はそいつらが反対にい

じめられる側に回ってしまうんだ。そう思えばお前もあいつらを喜ばせる態度を取っては

いけないんだ。あいつらは自分たちの鬱憤を晴らす対象としてお前を虐めているんだ。お

前の悲しむ姿を楽しみとして生きてるんだ」

・・・どこか説教じみている。

「人はお前の運命を変えることは出来ない。自分で解決出来る道はできるんだ。それを

見つけるんだ」

江藤は肩で息をしながら泣きじゃくっていた。

「・・・・ぼっ・・・僕にも出来るかな?」

泣きじゃくりすぎて声が聞こえずらい。

「そうだな。もっと物事を楽しく捉えればね」

「・・・・・・僕・・・・・何で死のうと思ったのかなぁ・・・。今考えると怖いよぉ・・・頭の中で声

がしたんだ。・・・〝今やるんだ・・・今ならみんなも僕に気づくはず。飛び降りるときは今し

かない!〟って」

「そうか・・・・やっぱりこれも鬼魔の仕業なんだ。自殺する人たちは追いつめられ逃げ場

を失い、冷静に物事が考えられなくなったときに心を鬼魔に奪われてしまうんだ」

「きま?」

少し引きながら不思議そうに宝の事をのぞき込んだ。

「・・・鬼魔かぁ・・・」

俺は一人でそう呟くと立ち上がり、そそくさと教室の方へと戻った。しばらく後に宝が教室

に入ってきた。

「遅かったな」

どさっと席に着いた宝にそう話しかけた。いかにも教室でずっと待っていたかのように。

「ああ、ちょっと」

そうやって何があったか言わないところが全くお前らしいよ。

「笠原先生はどうなったんかな」

さっき運ばれていった姿を思い浮かべながらそう言った。

「あーあ、あの中島がやられれば良かったのによ」

腹立つ大熊の顔を思い浮かべながら思いっきり悪態を付いた。そんな俺に宝は後ろに振

り返り、思いっきり睨んだ。

「冗談でもそんなこと言うな」

「わかった、わかった。そんなに怖い顔するなよ」

宝のこんな怖い顔は見たこと無かった。別にそれにひるんだ訳じゃ無いが、久々にきつく

しかられたような気分にさせられた。

「でもあんなのが本当に存在するとは思いもしなかったぜ。もしあんなのが頻繁に出てき

たら勉強どころじゃなくなるぜ。その方がいいけど」

自分の手を見つめてしまっていて、宝は俺の話を全く聞いていないようだった。

 昼に窓の外を見ると、既に警察は帰ったらしくパトカーもいなくなっていた。午後からは

副担任の社会の先生が今日の朝の出来事を報告に来た。

「今朝、理科室で起こったことはたぶん笠原先生が何かの実験をしていらして、調合を間

違え、爆発したとみられる。命には別状は無いが毒ガスを吸った可能性があるので先生

はしばらく入院することになるから」

はっ、それが世間での判断か。

「っち、な訳ねーよ」

放課後まで宝たちは行動を起こさなかった。

「なあ、何でお前たち、あんな変な力が出せるんだ?」

あの理科室が襲われたときに、はなられた白い光や、赤い光は、おそらく黒沢のように

宝や岬たちが出したものだろう。普通の一般人じゃあんなもの出せないはずだ。

「ここへ来る前からあったのか?」

「ここへ来てからだ」

「あの神社や洞窟と関係あるんか?」

「ああ」

「何かしたんか?」

俺は疑問に思っていた事を一気に質問した。しかし最後の質問には答えなかった。

「あの神社に入ればその力を手に入れることができるのか?」

宝は俺から逃れようとしたのか、そそくさと教室を出て行ってしまった。

「おい、宝」

俺が宝を追おうと後を付けようとしたとき、木村たちのグループのメンバーが宝に声を掛

ける声が聞こえてきた。それに俺は一瞬その場に凍り付く。

「堀君がねぇ。今、かわいそうなんだよ」

「そうそう、体育館の倉庫で泣いてるんだけど」

どうやら相手は二人いるようだ。というか何で人ごとなのにそんなこと宝に言う必要があ

るんだ?宝と堀が何の関係がある?

「宝君に助けてもらいたいだとよ」

「行かないと言ったら」

宝も同じ事を思っているらしい。うんざりとしたような口調でそんなことを言った。

「あっ、いいよ、別に・・・・堀君は明日から登校できなくなるだけだから・・・・・」

二人は高笑いをしながらそろって去っていった。それを見計らって俺は教室を出て、宝の

後ろに行った。

「いいのか?ほっといて」

こいつが困っている人を放っておける性格じゃないことは知っている。無理矢理関わらな

いようにしているだけに違いない。俺のその言葉を聞くと、仕方なく、さっきの二人を追い

かけて体育館のわきにある倉庫へと走っていった。俺はその後に付いていく。しーんとし

ていて、風でなびく木々の葉の音以外何も聞こえない。耳を澄ませると倉庫の中からしく

しくと泣き声が聞こえてきた。

「堀、そこにいるのか?」

「たっ、助けにきてくれたのか?早く出してくれ!」

倉庫の中から聞こえてくる堀の声は怯えきっていた。宝は入り口を開け、堀を探すと、ロ

ープをほどいて助けた。俺はその様子を遠くから眺めていた。

「やっぱり来たな」

草むらの方から木村を先頭にした集団が姿を現した。木村の顔はニヤニヤしている。

「お前たち、弱い者いじめはよせ!」

力強く宝は木村を睨みつけていた。

「あれ、お前がそんなことを言うとは・・・。本当のお前はそんな奴じゃないはずだ。人のこ

とはどうでもいい、自分さえ良ければ良かったはずじゃねーのか?そう言う奴だって聞い

てるぜ」

木村はポケットの中から取りだしたナイフとちらつかせながらそう言った。ナイフか。あん

なもんと素手でやり合ったらこっちが傷つくのが目に見えている。宝は身体をはって堀を

かばおうとしていた。俺は元来た道を引き戻した。確かここに来るまでの間に、野球部の

バットが置いてあったはずだ。俺は見つけたバットをひっつかむと、戻った。

「うざいんだよ!お前のその正義感に燃えたところがよ」

木村がそう叫ぶと同時に、一番後ろの奴の背中から思いっきりバットでぶん殴ってやっ

た。「お前ら卑怯だぞ!」

少し息を荒げながらそれでも大声を出して訴えた。

「おや、西口じゃんか」

木村は懐かしいおもちゃを見るような目で俺を見ると、口端をつり上げた。そんな木村を

睨みつける。

「あらら、お前もまた正義感に目覚めてしまったという訳か?」

俺は無言で木村を睨み続けた。そんな俺に大きくため息をつく。

「お前も二年前にはこいつみたいに青春してたんだよな。バスケに燃える正義少年。先

生たちのお気に入り。だけど約束を忘れたとは言わせないぞ」

・・・・そうだ・・・木村とかわした約束。約束というかあれはほぼ脅しというやつだ。自分の

顔から血の気が引いていくのが分かった。

「俺たちにこれ以上いじめられたく無かったら、バスケを二度とできないようにされたくな

かったら、大人しくしていろと言ったよな。あのとき、お前は泣いて頼んだよな。わかった

から、もう止めてくれと。無様な姿でよ」

俺は耐えきれなくなって木村から目をそらし、下に目を伏せた。手を力強く握りしめる。

「ほんとはあの後も、お前のバスケに燃える姿に苛立ったんで、締め上げるはずだったん

だけどもよ、知らんうちにバスケをやめちまったんだよな。大方、俺たちにやられる前に

止めたんだろ。情けねー奴!」

木村は甲高く笑った。

「くっそー!!」

俺は耐えきれなくなり、ついに切れた。お前らに虐められるのが嫌でバスケをやめたんじ

ゃねーよ!俺はやりたくてもできねー身体になっちまったんだ!!

全部の思いを込め、俺は木村にバットを掲げ襲いかかった。しかしそれは軽々と避けら

れ、逆に腕をつかみ上げられ、みぞおちに拳をめり込ませた。ちっきっしょー・・・・またか

よっ!!

「ぐはっ!」

どさっと俺は地面に倒れ込んだ。カランカランと木独特な音を立て、バットも俺の横に転が

った。

「超弱ぇー奴」

そう言いながら、木村は蹴りをしかけてきた。しかしそれが俺に当たる前に、木村が後ろ

に豪快に倒れた。宝が木村の股を蹴り上げたのだ。

「てっめー!!」

宝はもう一度木村を蹴り上げた。それを合図にしたかの用に、次々と向かっていくメンバ

ーを宝は軽く倒した。俺は痛みに耐えながらよろよろと立ち上がり、ふるえている堀の前

に立ちはだかった。

「・・・んの・・・くそやろ・・」

「いいのか?まだ問題を起こして・・・母ちゃんがまた呼ばれるぞ!」

木村はそう言いながら、手に持っていたナイフを舐め、宝に近づく。どうしたらいい、そうし

たらこの状況から3人も助けられる・・・どうしたら・・・。

その時、腕に強烈な痛みが走った。

「ぐあぁっ・・・!!!」

痛みのあまり、とんでもないうめき声を出してしまった。ばっと宝の視線がこちらに向く。

俺は痛む手を押さえながらその場に倒れ込んだ。

「どうしたんだ!」

宝は俺に駆け寄る。すると、薄気味悪い笑みを浮かべた堀が俺と宝を見下ろしていた。

手にはカッターナイフ。その先には俺の血らしきものがついていた。・・・あれで切られた

のか・・・。

「堀・・・・」

信じられないと言う顔で宝は堀を見上げた。

「お遊びはこれまでだね」

眼鏡の奥にある目が不気味に笑った。その後、木村に近づくと、そのまま頬を殴り倒し

た。その光景に俺は唖然としてしまう。

「頼りのない奴だね。君は」

木村でさえも上から見下ろした。そして、手に握られていたナイフをもぎ取ると、それを俺

と宝の方に向けた。

「驚いたか?僕が黒幕だったとは」

驚いたも何も、こんな事があってもいいのか?堀は学年の中で今は一番成績がトップの

はずだ。それに木村たちに虐められているという感じは全く無かった。それなのに、その

全く逆。この木村たちを好き勝手に操っていただなんて・・・・。どうやら宝も同じ気持ちら

しい。

「君の噂は聞いていたよ。落ちこぼれの不良少年。だけどそれがどうして。正義感の強い

成績抜群の少年じゃないか。最初は君なんか屁とも思ってなかった。だがどんどん目立

ち始めたのがいけなかったね。先生にも一目置かれるようになったし。僕はそんな奴が

一番嫌いなんだ。学年トップは僕なんだ。先生に気に入られるのは僕だけなんだ」

なんつー・・・。

それを言う堀は今までの堀とは全く違っていた。憎悪という感情に支配されているかのよ

うだった。

「これだけ勉強しているのに。人の倍も塾に通っているのに。何故だ!許せない!」

頭がどこかおかしくなってしまったように、堀は持っていたナイフを宝に振りかざした。宝

は間一髪のところで転がりながらそれを避けた。

「死ね!お前なんか死ねばいいんだ!」

堀は何度も何度も宝にナイフを振りかざした。

「止めろ!堀!」

もう後ろに逃げられなくなった宝は、手を組んだ。谷屋の胸に当てたときと同じように。

その時、堀はナイフを投げ捨て、両目を押さえた。

「ううう・・・・何をした!」

後ろに1、2歩下がりながら、堀は呻った。宝の手の中から漏れてくる光にうめき、暴れて

いた。そしてしばらくその状態が続いた。しかしはっとした瞬間、堀の身体の中から黒いも

のが抜け出てきた。何度も目にしたことがある。鬼魔だ。それが裏山の方に消えていく

と、ふっと身体の力を抜いた。その瞬間、腕の痛みが俺を襲った。

「うう・・・」

思わすうめき声を出してしまった。

「大丈夫か?」

宝が駆け寄ってきた。

「歩けるか?」

そっと俺に手を掛け立ち上がらせてくれた。少し出血しすぎたせいかフラフラする。宝に支

えられた俺は、口をパクつかせる木村たちの横を通り過ぎ、保健室に行った。

「どうしたの!」

俺の姿を見て驚いた先生は、急いで、俺の裾をまくり上げた。

「先生、体育館倉庫の側で倒れている子がいるからそっちを先に見てあげて」

先生からタオルを受け取り、それで傷口を押さえながら少し笑った。先生は一瞬〝え?ど

うして?〟と言う顔をしたが、大事件にでもなっていると思ったのだろう。ちゃっちゃと俺

の応急処置をすませると、保健室から慌てて出て行った。

「宝・・・あれもそうか?」

俺は確認の意味で問いかけた。

「ああ、たぶん」

「あいつもあの黒いのに取り憑かれたのか?」

「・・・いや、あれは外から取り憑かれたんじゃない。堀が生み出したものだよ」

宝はため息をついた。

「鬼魔は人間の作り出した憎悪や恐怖、不満、不安なんだ」

「鬼魔?じゃあ、堀はあれを自ら作ったと言うのか?」

そんなばかなという口調で言った。

「たぶん・・・・堀は人には言えぬプレッシャーを受け続けて来たんだな。その苦しみから

逃れるために心の中に鬼魔を作り出し、果てにはその鬼魔に心を預けてしまったんだ。

そしてその力で木村たちを操り、少しでもそのプレッシャーを和らげようとしたんだ」

「まさか、あいつが木村たちを動かしていたなんて・・・・」

じゃあ、堀が木村たちを動かしていたということは、何もあいつらは悪く無いのか?何もし

ていないと言うのか?そんなこと言っていたら、悪いのはその人自身じゃなくて、周りと

か言い出すんじゃないのか?

「頭のいいやり方だな。堀はあくまでも自分の手を汚さずに邪魔な者を潰してきた。先生

や親には絶対ばれないように・・・・」

「かわいそうな奴だな。でも、もうあいつは大丈夫なんだろ」

少し哀れみを込めた。

「何とも言えない・・・・たぶんこれで少しは落ち着くかもしれない。だけどすぐにまた同じ

事を繰り返すだろう・・あいつが自分自身で気づかない限り」

そうか、結局はそう言う事なのか。いくら宝が宝の力であの変な化け物を追い払ったっ

て、その元を排除しない限りは無理なんだ。

「じゃ、もしあいつが今までの事を反省し悔い改めれば、もう鬼魔に操られることが無いと

いうことなのか」

「ああ、心の中に鬼魔を作り出さない限りは。だけど、あいつが今までに作ってしまった原

因は全て消えた訳じゃ無い。その結果を果たさせるために何らかの形で舞い戻ってくる

だろう」

「そんな・・・じゃあ、どうすることもできないのか」

「でも、それを防ぐ事は出来る・・・・」

「もしかして、お前の言っていた水晶でか?」

「ああ」

宝は素直に俺の質問に答えてくれた。そうだ・・・こいつなら、俺の話、真っ向から聞いて

くれるかもしれない。

「・・・・木村が言っていたことは本当だ」

手に握っていたタオルについている自分の血を見ながらやっと口を開いた。

「俺は、木村たちにやられていたんだ。毎日、怖くてたまらなかった。お前、言ってたな。

病気は自らが作るものだと。俺・・・・気づいたんだ、あれから。俺はバスケを諦めるため

に自己防衛をしてたんだということを。きっとこの心臓の病気は俺が作り出したんだ」

俺は胸を押さえながら言った。これは何度か考えてやっとたどり着いた結果だった。

「きっとまたバスケができるようになるよ」

肩をぽんっと軽く叩かれた。これだ、俺の求めていたものは。同情の目なんかじゃなく

て、哀れみの目なんかじゃなくて、俺と・・・俺と一緒にがんばってくれるって言う目を求め

ていたんだ。何故かうれしさがこみ上げ、俺は微笑んだ。

「西口君!大丈夫!」

ばーんと派手な音を立てながら保健室のドアが開いたかと思うと、血相を変えた岬が叫

びながら飛び込んできた。

「今、堀君が救急車で運ばれていったわ!西口君もナイフで切られたって聞いて。一体

何があったの?」

一度宝ははやし立てる岬を落ち着かせてから、今までに起きたことを一通り説明した。そ

の後に、職員室に呼び出され、先生たちにも同じ事を説明しなきゃならなく、すぐには帰し

てもらえなかった。しかし、鬼魔の存在を知っている岬に説明することは簡単だったが、

教えるわけにも行かない先生たち相手に説明することは難しかった。思ったより時間が

かかってしまった。

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